授業が終わって、ろう下でその男子生徒、山崎を手招きで呼び寄せた。

土方と沖田、彼らは、何者であるのか。坂田が知りたいのは実にそれだけである。

てんんめェェ殺す気かァァ、という怒鳴り声がその他いろいろな音と一緒にさっそく窓から聞こえてくる。
山崎は言う。あんなの、ざらですよ、と言う。
この前古典の授業中に、沖田がスコップを持ってやってきた。
それで何をされるのかみんなは首をかしげていたが、土方は窓から逃げた。
昼休みに用務員さんが、畑に半身埋まっていたという土方をかついで届けてくれた。
「イモじゃあるまいし」
「とにかく、あれは二人の問題ですから。先生といえど口をはさんだらなにされるか、わかったもんじゃないです」

まじでか。

チリンチリン、と何かが高く鳴っている窓の外を思わず見てしまう。
どのような過程を経たのか、コンクリートの上で丸太のように激しくゴロゴロ転がっている土方を、自転車に乗った沖田が轢こうとしている。

あの子はいったいどれだけの恨みがあればそれをそれだけの行動に移せるのだろう。

勢いが止まってしまう寸前でなんとかもう一回転して土方は、避ける。
沖田が自転車から降りてくる。
すでに満身創痍で動けない土方に、馬乗りになる。
あああそのポジションをとられたらもう終わりだ。どうすべきか、傍観者を決め込んできたけどタオルを投げるか続行か、と迷っていたら、 沖田はただ顔を近づけただけだった。
ちょっと近すぎる。
そしてそのまま動かない。

あれ。
これ。
もしかして。あれじゃない?
キス。してんじゃない。

ちょっと経って、今度はもつれるように土方が上になった。
ああ、してるしてる。完全にしてる。
ハァ、と色っぽい息を吐いた、かどうかは知らないが、すこし顔を離した土方は、今の今までくちびるを合わせていた沖田に思い切り、頭突きをした。

いったい、何なんだお前らは。

土方が立ち上がる。今度はこちらにまで聞こえるため息をついている。
額をおさえた沖田が蹴る。土方がよける。
なんか二人とも薄く笑っている。激闘さなかにみせる、ふふふ、へへへというようないってしまった笑みである。
そうして自転車に乗りなおした二人は、まだ始まったばかりの学校から、だんだん小さくなっていった。
なんていうか、こいつらの青春のノリにはついていけない、と思った。
こういったやりきれない呆れが学校中のみんなをああも淡白にさせているのか、と非常に納得がいった瞬間であった。
「つまり、恋人同士なんです。あのふたり」

恋人同士って、なんだっけ。

坂田は結婚して相手の名前の刺青まで彫ったのに後にニコール・キッドマンと離婚して今や宇宙教なるものにはまってしまたトム・クルーズのことをぼんやり考えていた。
この学校に(そうであると信じたい)坂田の疑問に答えてくれるものは、誰もいないのである。