『ふしぎ土方と坂田』


屋上で、ふしぎ土方と、一緒になる。
ふしぎ土方は今日も墨のような黒色の髪の毛をしていて、制服のズボンの下で上靴のかわりによれたスニー カーを、履いている。
フェンスの前で、立っている。
カツのサンドを、かじっている。(むぞうさに)
そして、口ずさんでいる。

「闇に 隠れて 生きる」

妖怪人間ベムのテーマである。食べている口の中で、歌う。古いアニメにありがちな何とも暗い歌であ る。2番に入るとだんだん歌詞があやしくなってすぐにただの鼻歌になり、ひどく中途半端なところでタバ コを吸う。(たまに突如サンダーバードに入る)
それからのふしぎ土方の行動は、おもに5つである。
1.お菓子のおまけおもちゃを、組み立てる。
2.おもむろにタップをふむ。
3.足をかく。
4.深く考えこむ。
5.そういうことってある、と口に出してみる。
そうして一連のそれをすまし予鈴がなってからきっちり12分たつと、満足げに頷いて、丸めたパンの袋をポケッ トにつっこみながら何事もなかったかのようにゆうぜんとドアの向こうへ去っていく。


すごく気になる。



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『土方と葉書』

沖田から、葉書がきた。
最近、近くにできたせんべい屋のうすいちらしと一緒に郵便受けの中にぽつんと入っていたのであ る。
彼からそのようなものが来るのはとても珍しいので、警戒する。たくあんを噛む。2つめもよく噛む。
机の上に置いていたそれを、箸でつまんで、そうっと裏側へ頭を傾けてみる。目を細めて、見てみる。
右上から縦に、「いよいよ」と書いてあるようにみえる。完全に裏返してみると、たしかに、「いよいよ」と書 いてある。(あとはただの余白が広がっている)
やわらかい白米を運んで、黙る。
しばらく考えて、もぐもぐ口を動かす。たくあんをすべてたいらげる。窓の外で朝の水まきの音が聞こ
えている。きれいな流しの中に茶碗と小皿を片付けて、きちんと水につける。
いよいよ。
つぶやいてみて、鍋に火をかける。白いタイルをみつめて腕を組む。
いよいよか。そうか。いよいよなんだな。
なんだか、わけもわからず、思わず、ひどく、納得する。



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『土方くんの12月(末)』 銀→土


23日
パチンコ屋のバイトへ夕飯用にからあげ弁当(ご飯抜き)を買って4時30半ジャストに入る。
早番あがりの坂田からカウンターを引き継ぐ。
「お、前さーあさってとか、しあさって予定ある? や、別に聞いてみただけだけど暇じゃなくて全然いんだけど」
坂田が蝶ネクタイを外しながら挙動不審に、そう言う。
予定がなかったので、予定を考えている内にバイトが終わる。
24日
姉から「人参ガジュマル」が届く。
何て名前をつけようか考える。
育て方という紙を読み、なるほど観葉植物って観賞用植物の略じゃなかったのか、と一つ賢くなる。
その裏に年末観たい映画を4つ書く。
25日
昼過ぎに起きて、スロットに行く。
千円で入った「哲也」のARTが延々止まらず食事のタイミングを逃す。
2箱がぎゅうぎゅう勝ち盛りになる。=5万8千円になる。
これは設定6とみた。
帰りに霧吹きを買う。
ついでに名前の候補を店の看板から探してみる。
26日
パチンコ屋のオープン作業中、坂田がマイクをいじりつつやけにこちらを見る。
「インカムの調子でも悪いのか」、聞くと、 「や別に違うけど感度良好だけど!」と叫ぶ。
昼休みにすきやき弁当(うどん入り)を食う。
帰りに、葉っぱスプレーを買う。
ついでに、名前の候補をもちの種類から探してみる。
27日
パチンコ屋のイベント日で2時間残業する。
あがりの際、休憩室でカップ麺にお湯を入れていた坂田と一緒になる。
「えーあのさ、お前、24、25、結局何してたの? や、別に全然いんだけど全く気にしてないけど」
思い出しつつ全部伝え終わると、坂田はポカンとした目をした。
「・・・や、別にいいとは言ったけどさ、暇じゃんね! 完全暇だったよねソレ!」
そうでもない。
まだ「人参ガジュマル」につける名前が決まってな
「いやっどうでもいいじゃん、いつでもできるじゃんそんなの! お前何ちょいちょい植物関連はさんでくんの? 何で霧吹き買ってんの?」
まだ肥料と植え替えようの鉢ともっとちゃんとした置き場所を
「いいよ観葉植物はもう! キャラじゃねえよお前! てか『哲也』の設定6拾ったの?」
あれはフィーバーした。久々にスロットで箱を積んだ。
「どうりで弁当が豪華だと思ったよ。・・・やどうでもいいんだよそんなことは!」
その日はルセロに行く気分だったのが当たった。ルセロといっても国道じゃねえ方の食堂がない方の
「聞いてねえええ! 俺、24、25暇?って聞いたんじゃん、ねえ! 暇だったら連絡すればよかったじゃん!」
「何で」
「なん、何でって・・・・モ、・・・・モスチキンの2つや3つ食べればいいじゃん!」
「ケンタッキーじゃなく」
「お前ケンチキなめてるよ、かく言う俺もなめてたよ、21日までに予約してなかったら買えなかったよ・・・」
や、どうでもいんだよそれは・・・、坂田はすこし黙って、若干目を泳がせてから、カップ麺のフタを妙にべろーとめくる。
「・・・や、何つうの・・・・ク・・・リスマス?」
が、どうした。そっちの方がどうでもよくないか。
「こう・・・1人暮らしだとさー・・・12月のそういう日って何か無性にポツンとなるんだよねふっとだけど  こたつ入ってあったかいけど外は寒いじゃん・・・テレビは賑やかだけど、俺ん家の通りなんか静かじゃん  CM中に暗いベランダの方見て、あークリスマスかあって考えると急にむなしくなるってゆうか・・・・なんかそうゆうの」
ミナミの帝王映画パート6、をペンでぐるぐる囲む。よし。
「や、まあだから、年末・・・もさーたぶんそんな感じになっちゃうと、思う、んだよ、ね・・・?」
坂田がちらと視線を向けるのを感じたので、何をうかがっているのかと、はん?、目をあげる。
「・・・えっ、お前聞いてた?! 俺の話聞いてたちゃんと?! てか何見てんのさっきから!」
「年末、絶対、観る映画リスト」
「・・・・・・ッ・・・も、・・・・・・・あーーー!」
坂田はガツンと額をテーブルにぶつけて沈んだ。
灰皿の水と吸殻がこぼれた。
その億劫な汚れを見ていると坂田の言う虚しさというか虚無感がぼんやりとだけわかる気がしてスンと鼻をならす。
それから、『人参ガジュマル』につけるなま
「名前を考えてんだろどうせ」
坂田が頬杖をついてカップ麺へ目を伏せたまま言う。口元がちょっと笑っている。
時計にやっていた目をそちらに向けて一つまばたきをする。
「よくわかったな」
「まあね。・・・お前のことなんかいっつも見てんだよ」
「何がいいと思う」
「うん、まあ、前からお前のことをさ・・・・・え、はっ?」
「だから、名前。『人参ガジュマル』の、なま、」
「知っ・・・らねえわァァァ! もっお前は来年の抱負を『少しは察するという日本人の心を持つ』にしろ! バカっ!」
坂田は、なんだか勢いよく立ちあがって出て行った。
ふと見ると、ラーメンがまだ残っていたのでもったいないと食べていたら、トイレから帰ってきたらしい坂田にとても怒られた。