※リク 金土シリーズ:オマケの続き弟
メダルゲームのビデオスロットが、チャラランと音を立てて、当たりが出る。たまったクレジットは一万を越え出して、 隣で突き出したくちびるにタバコをはさみながら、つまらなそうにベットボタンを押していた十四郎がこちらに身を乗り出した。 「いるんだよな、こうゆう引きの強い奴・・・」 「パチ屋みてえに換金できねえし、複雑〜も、帰る?」 「まだチャンスゲーム入ってんじゃねえか、最後までやれよ」 「えーじゃお前にあげる」 カップに入った大量のメダルを差し出すと、十四郎は、 「いや、友達同士のメダルの共有は禁止って書いてんだろ」 何でもない顔でそう言って、スロットの画面にまた目を戻した。向こうのメダル落としコーナーで、 ジャックポットでも出たのか、わあっと盛り上がった声が聞こえる。 金時と土方が暇な日密かに通っていると教えてもらった薄暗いメダルゲームの店内で、土曜の昼間から、背広のおじさんや、 部活のバックをかついだ学生が競馬ゲームの前で真剣な顔してるのを見渡してから、問題の注意書きを見上げた。 友達同士。 うん。いや、いんだけどね。 「あのランキングボードに乗ってた、37000って、土方だろ」 「・・・あー」 「本物の競馬やればいいのに。勝負勘の無駄遣いしてんねー、あの人」 「・・・・」 「ん、何?」 休日の人の多い、帰り道。自分を無言の横目で見ていた十四郎は、途中にあった灰皿の方へ顔をそむけてタバコを捨てた。 何よ、とポケットに両手を入れたまま前を遮るように体を傾けると、うっとうしそうに避けるので、その方向をまた遮る。 十四郎が眉を寄せてこちらを見、反対側へ足を出す。自分も出す。 3回くらいバスケのディフェンスみたいなそれを繰り返した結果、てめッ、いい加減邪魔、と頭をはたかれて笑った。 「金時はどうしてんだよ」 「んー? 別に普通だよ。何か今度はイタ車買うんだって」 「ふうん」 「・・・ついでに、今日はあいつ家、いない、よ」 「・・・だから何だよ」 初めて、十四郎に会いに学校へ行った日から、ちょくちょくこうして会うようになった。飯を食べて、 映画観たり、靴をみたり、こうしてメダルゲームの店で遊んだり、 兄貴同士の話以外にも、話題が増えた。好きな音楽とかスポーツとかも、こうして会う度する他愛ない会話の流れで知った。 寮生活があんまり好きじゃないことも。だから、その帰りにうちに誘えば、その頃にはもう出かけている金時がいない 家の中は二人きりだ。 ソファーに座っている十四郎の横に膝をついて、顔を寄せる。 「・・・ん」 初めての日にすでにしたキスには彼はぜんぜん抵抗がないみたいで、遠慮なく舌を絡ませた。 静かなリビングのソファーでそんなことしてたら、自然とそういう雰囲気に包まれるものだから、 俺はもう何度目かのように、十四郎を熱の視線で見下ろす。 暗黙の了解の確認、というか。このまま、この空気に身を任せる準備というか。 だけど、そこまでだ。十四郎は決まって、こちらの肩を手で押しやって、帰る、と俺の体の下からするりと抜け出す。 そこから先が、まったく進まない。 一緒に街を歩くかんじはデートっぽいのに。キス、するのに。いい雰囲気までいくのに。男を知らないわけなんかじゃ、ないくせに。 何っ・・・だろなー。首をかしげて、ぼりぼり頭をかきながら、彼の肩に横目をやった。 「もしかしてさあ、例の先生と、まだ、続いてんの?」 「続いてるも何も、べつに付き合ってねえよ」 立ち上がって首の襟なんかをなおしている十四郎は淡白に答えた。その向こうの窓から見える夕方の赤が、電線の黒をよく映えあがらせる。 それを見ていると、銀時は、あの、土方の家から一人で帰った朝の気持ちをなんとなくだけ、ぼうと、思いだす。 「でも、やってんでしょ・・・」 「・・・・」 「えっ、ほんとにまだやってんの」 「・・・お前には関係ねえだろ」 「ふーん・・・」 黙る十四郎の腕を、ソファーの背ごしにひいた。よろけてちょっとびっくりしてる目を近距離で見つめて、額を近づける。 「教師とセックスすんのってどんな感じ? 最中に、せんせ、とか呼ばされたり、するわけ?」 「おっ前・・・何だよいきなり」 すこし体をひいてこっちを見る十四郎の首元に、くちびるをあてた。そこへ、ふうとかすかな息をかけてしゃべる。 「ねえ、しようよ・・・そろそろ限界俺。別にまだ俺のこと好きじゃなくたって、いいからさ。彼氏でもない奴としてんなら、俺でもいいじゃん」 「ッ・・と待て、そういう、問題じゃ・・・あ、いてっ」 ソファーを足で乗り越えてその勢いのまま、床に尻餅をついた十四郎を壁に押し付けた。 その体を膝立ちの間にはさんで、そのせいでできた身長差に、上から髪を落とす。 「何、じゃあどういう問題なの」 後ろの壁を振り返って、逃げられないことを確認したような十四郎は、ぐ、とくちびるを閉じた。眉を寄せて、ふてくされたようにななめ横の宙を睨んでいる。 まるで子供みたいだ。色気もムードもあったもんじゃないけど、 あの土方を知ってる分、何かかわいい。考えていると、十四郎は黒い前髪の下からくちびるを曲げたまんまこちらを見上げた。 「お前、どうせ兄貴と、したんだろ」 え その言葉に、頭が一瞬真っ白になる。 いや、まあ・・・ それから、ふうと目の前の遠くでよみがえってくる、あの日のこと。プジョーの車。大人びた彼の空気。土方の部屋。 夜。その翌日の、どうしようもなく青春を感じた、朝。 ・・・カリ、と耳の裏をかいた。そんなこちらの様子を見つめる十四郎の前髪の束が、ぱらりと落ちる。 変に、緊張する雰囲気。 「・・・・いや、うん・・・やっ、でも、だけど・・・」 色んな言い訳が浮かんできて、まとまらなくって、言葉にならない。うー、と額をおさえたまま目を閉じる。 でも、だけど、土方と十四郎は、違う。 ぜんぜん、違う。 土方のあの引きずり込まれるような感覚には確かに震える。だけど、十四郎とは、ただ一緒にいるのが、楽しい。 初めて会った日の、海で砂まみれになったこととか。今日、街ぶらぶらしてたときとか。そんで、 たまに、手ェ、つなぎたくなって、ちょっかいかけたくなって、呆れたり怒ってる顔するの、見たい。 こんな、ゆるやかな幸せみたいな感覚、土方には抱かないよ。お前だけ。 言葉に出して言えればいいのに、なんだか喉がひどく熱くて重たくって、開けたり閉めたりする口からどうしても出てこない。 だから、ぎゅ、と十四郎の肩の服を掴んで首筋にくちびるを押しあてた。 「ッ、やめろよ、」 よじる腰をはさんだ両足でおさえて、こちらを押し返す右手を掴む。そのまま、片手をシャツのボタンにかける。 「め、ろって!」 結構強い力で目一杯突き放そうとする彼を抑えるのに苦労しつつ、意地でも覆いかぶさっていると玄関のドアが開く音がした。 思わず二人してぴたり動きを止め、リビングの入り口を見る。眠そうな目を金髪の下に隠した金時が、口にしていたペットボトルを離した。 「・・・・・あー。気にせず続けて」 再び水を飲みながらいつもの気だるい足取りでろう下に消えていくその姿に、て・・んめバカ金時!十四郎は心底恨めしそうにもがいた。 まあまあお許しも出たことだし・・・、見慣れた金時の顔を見ると何だか一気に葛藤がバカバカしくなって押し倒し直してるところへ、玄関から、続いてくる声。 「お前、靴裏返ってんぞ・・・ったく、揃えてけよ・・・」 (土方) 一瞬、全部の思考が止まった。思わず、ばっと顔をあげて、くちびるを意味もなく開いた。 足音が近づくリビングの入り口に視界が集中する。周りの音がなくなって、心臓を打つ感覚が頭に響く。 そんな自分を、下から見上げてる十四郎の顔は見えない。 「何してんのお前」 一回通り過ぎて、ふっと戻ってきた土方の顔がリビングをのぞいた。あ、と今の状況に意識が戻る。 「えっと、十四郎くんを押し倒して、る?」 「見りゃわかる」 「じゃ、聞かないでよ・・・」 カァァ、と顔を染めて、眉を下げた。土方はいつもの表情をしたまま口を開いて、 「俺が言ってんのは、」 言いかけたのを、もー土方いいだろ好きにさせとけばよー、腕だけ見えた金時の手が引っ張った。うるせーわかってる、と土方が煙を吐く。 それから、立ち去る前に、首をかきながら言い残した。 「お前らのことに口はさむ気はねえけどよ・・・俺の弟にそんな顔させてんじゃねえぞ」 ・・・えっ。 そんな顔って、どんな。 下にしいていた十四郎を見下ろすと、もう思い切りあっちを向いている上拳で隠されていてわからない。 「・・・十四郎、」 腕を退かせて、頭の上の床に押し付ける。抵抗されるかと思えば、十四郎は全然力を入れなかった。 真横に俯いて散った髪の影に入っている目は見えずに、さらされた首筋が目に入った。 さっき外したボタンで、はだけてるシャツ。食ってくださいと言わんばかりの色っぽい格好だ。 何も言わねんならやっちゃうよ、思いつつ鎖骨の上にくちびるを落とすと、ぴく、と動く。そのまま首へと舌でなぞれば、・・・う、ん、ともれた息を聞いた。 ・・・あれ。これ、していいのかな。いいんだよな。・・・何だよ、いきなり。なんか投げやり気味じゃない? 「・・・んッ」 「・・・何てーか、慣れてるよね・・・」 下半身の力をちょうどいいように抜いて、片足をこちらの肩に乗せてる十四郎は目を閉じたまま何も言わない。 ゆっくり中に入ると、降ろしたままでいるまぶたの皺をきつくして、はッとだけ息を吐いた。壁を作られてるみたいで何か悲しい。 べつに、俺は、ただやりたいからしようって言ったんじゃないのに。 「・・・ねえ、こっち見て」 「・・・ん、・・は、」 「見てってば」 「いや、だ」 顔を両手ではさむと、十四郎は首をよじった。ぐ、と眉を寄せる。 「何でだよ。先生でも思い描いてんの」 「ッ・・・んん! ・・・・違、う」 「じゃあ、何なの」 十四郎のいつまでたっても開かない目を、どんな情報も見逃さないようまばたきもせず見下ろす。 やがてくちびるを開いた十四郎は、色っぽい声と息の間で、「・・・兄貴、」と言った。 「・・・・ええっ、ちょ、お前駄目だよ、それ、近親相姦ッ・・・」 「違ぇ、バカ! 兄貴と、」 「土方?」 「・・・ッ、いやそりゃ俺も、土方、だけど、」 「ええ? 知ってるけど・・・え?」 あれ、もしかして。 土方のこと気にしてる? 俺が、土方に惹かれたことを? セックスしたことを。 (・・・うわッ。) とたんに胸がきゅうとなって、頭を落とした。 でも、過去はどうしたって変えられない。だって、あん時はまだお前に出会って、なかったし。 もし、順番が逆だったとしても、きっとどうしても土方にはあの感覚を抱いてしまっただろう、し。 だけど。 「・・・ねえ、目ェ開けて。俺ちゃんと、お前のこと見てるよ」 土方に向くのは欲しいっていう欲と、一種の、憧れみたいなもので。お前に向くのは、だから、もっと。 もっと。 日常の幸せで、それを共有したいという気持ちで、他の誰かとだったら何でもないことで・・・ すう、と薄くひらいたまぶたの間から、ちょっとうるんでる十四郎の瞳がのぞいて、思わず片手で自分の顔を隠した。 「・・・・わざわざ人が照れてる時に、見んなよ・・・・」 「・・・お前が見ろって」 「くそ、愛しいよ。普通に喋って遊んでセックスして、一緒に、いたいと思うよ」 きっかけは確かに土方かもしんないけどさ・・・、耳が赤くなってるのがわかりながら言葉にすると、その後の間が恥ずかしくてたまらなくなって、十四郎の肩に顔を隠した。 当たった骨の部分に額をすりつける。 「・・・お前こそさ、土方にヤキモチなんか妬いて。俺のこと好きんなったんだろ」 「いや違ェ、それはプライドとか意地とかそういう・・・」 「はいはいはい、とにかく、続き、さして」 目を閉じて笑いながら、キスを落とすと観念したみたいに息を吐いた十四郎のくちびるが開いた。 「つーかさあ、お前土方とも十四郎くんともヤってって、一番得してねえ?」 何こんなのに制覇されてんだよ土方家、金時が引いた牌を面白くなさそうに一瞥して河に捨てた。 はい来た、イーソウ。 「ロン」 「・・・てめーは何こんなのに振り込んでんだ金時」 十四郎が、むっすとしてななめ前を睨む。みんなで俺の役をのぞきこんだあと、土方はくわえていたタバコに火をつけて、さて次、と言わんばかりにさっさと牌をまぜ直した。 「てか、お前らこんなのこんなのってひどくね? あっ、点棒投げんな!」 金時と十四郎から同時に投げつけられて ばらばら落ちたそれを拾うため、机の下に顔を入れると、金時の足が十四郎の太ももを触ってるのが見えた。 ・・・おい。 がばり顔をあげれば、いつもの顔をしたままの金時と、そわ、と肩を動かしている十四郎が目に入る。 「ねー悔しいよねー十四郎くん。どう、この際、俺らもしとく?」 (アホか。) 思いながらちらり十四郎に目をやると、本気かよと言ってじっと金時を見返している。 金時はくちびるのはしに艶っぽい笑みを浮かべてそれを受ける。 それから、あーやっぱかわいいなあ高校生の土方、十四郎の頭を片手でひいて耳に吸い付いた。 ちょ、と言いつつ全然抵抗してないように見えることに、ぎりぎりする。その困った顔は誘ってる。 「ちょ、なあ、土方!」 いよいよ救いを求めて彼を見ると、土方はこめかみに手をあてて、「あいつ、先生とやらとは切れたのか?」、淡々と自分の手牌を並び替えた。 え、それは・・・あれ、どうなんだろ・・・・ もごもごしている内に、「ま、恋人一筋じゃねーのは俺と同じかもな」、土方が手の平でサイコロを転がしながらのん気にそれを振った。 ぼかんとした後、ぎりりくちびるを噛む。 ・・・ちくちょう、土方家。 銀時は、土方の色のある長い指先と、かわいく悩ましげにしている十四郎を見て、・・・ダンッと自分の手牌を起こしとりあえず金時を蹴りとばした。 ← 2007.8.29 |