「寒いのもダメだし、直射日光もダメだから」


・・・・・・。
・・・・・・・・・・は?


まぶたのすき間に光が入ってきて、ジーン・・・とする。
俺は、布団のなかで振り向いたまま、まだ半分寝ていた。
(・・・んむぅ。)
「ちゃんと大事にしてよね」
立て続けの引っ越し案件で、すじが痛い。
だんだん開く目に入ってくるのは、金時のうでに抱かれている植木鉢だ。
「・・・・お前は欧米の俳優か」
「コーヒーの木〜」
「朝っぱらからンなもん持って人のベッド際に立っても許される事情って限られてない?」
「もう昼だけど」
うるせーこの際どっちでも一緒だわ






(もうちょっと寝たかったのに・・・)
ぐしゃぐしゃ髪をかきながら入ったリビングは、無人だ。
床に、まぶしい陽の海だけが、広がっている。
でかいクマの隣に、ドンと植木鉢を置いた金時は片手ポケットのままちょっと土方の部屋をのぞいた。
「なんだ、もう幽閉期間終わっちゃったんだ」
「誰が幽閉してたんだよ」
あっちが寝込んでたんだろ。・・・まあ、間違ってはないか? 大人しく休んでるかどうかに気ィ張ってたときは、こっちも疲れたし。何とでも言え。一回、命かかっちゃったんだから
それより・・・・
金時は、さっきから妙にニコニコして俺をみてる気がする。
・・・・ヤバイなにこれ? 初めてみるタイプなんだけど
冨樫漫画だったら、次のページで人殺してるやつじゃない?
そっとしとこ・・、
「2人ともいないとかお前、邪魔ものになってんじゃないのォ、ふふ」
やっぱ殴るか
「ヒマなら木の世話以外にももっと頼めばよかったな〜仕事」
ヒマじゃねえわ!
・・・・・正確には基本ヒマだけど。
けど、長谷川さんを皮切りにさあ、知り合いがさあ、意外と仕事頼んでくれたもんだからさあ。ほんと、仕方なく、怒涛に出動してたんだよね、俺。 ・・・そういやあいつら、ちゃんと生活できてんのかな
窓がつやっとしてる、雨上がり。
2人分のパン皿が水につかって、俺のケータイが点滅してる。
チカチカ、青い。
(・・・・・・あ。)
俺は、ほぼ開いてない目に髪がかかったまま、ふと動きを止めた。
・・・この
これ
(まただ。)
・・・高杉と土方が、起きて飯食って、Tシャツを。
着替えてどっか行って、俺に電話してきたんだろう流れがよぎる、こういうとき。
なんだろ。
なんかわかる。

かすかに発光してる。

あの夜から・・・
2人の距離感が

「おっ」
お?
「なにこの本」
「!!!」
「なになに 『今日から、個人事業をはじめよ・・・、」
「てか何の用?!!?」
テーブルへスライディングした俺の怒声に、金時が小さくバンザイする。 ふっとんでった本を目で追い、
「またそんな、文字より絵が多そうな」
と余計な一言つけるのもわすれない。・・・テメーだんだん目ェ覚めてきたぞ。さっき『仕事頼む』とか言ったな? どっから聞きつけてきたんだ。
「早よ帰れ」
「ひっどいなぁ、そっちからもっと営業しないと」
家族なんか一番のカモよお前、と金時はこっちの胸ポケットに封筒をさしこみポポンと叩いて、出ていった。
えっ・・・
「・・・・木の世話で10万ってどゆこと?」
確かに、まだ料金設定ちゃんと決まってないけど・・・
封筒の中身をみつめて立ち尽くしてる後ろに、二人が袋をがさがさいわせて帰ってくる。
まばたきする土方と、「ゲホケホ」と何か食いながらむせてる高杉。
2人が顔を見合わせ、「お祝いじゃねえの」と土方が言った。俺は、高杉が持ってるパックの餅を見た。 ・・・なんでそれを道中で食おうと思ったんだよ。きなこかかってる時点で断念しろよ・・・
・・・・・・
え、お祝いってなんの
「俺もいま、ママにいろいろ謝りに行ってきたんだけど、そんときにホラ・・・」
と、土方の懐から差し出されるのは、第二の封筒。
『電球替えにきてね』と書かれた手紙と、割に合わない現金。
「・・・・・・・・・・・・・めろ・・・・」
「は?」
「そういうのやめろォォ!!」
もう耐え切れずにテーブルへ突っ伏す。
「まだ軌道にも乗ってねえから!! 先走りすぎだから! 失敗したらどうすんだよ!」
腹立つ、金時のあの顔! 目に浮かぶママの顔! 『うちの子が事業はじめちゃって〜ニコニコ』みたいなッ? クソッ 保護者きどりやがってッ
「いいじゃねーか、失敗したって」
「お前はディズニーか!」
こどもみたいに机の下で足をばたばたさせてると、「いや、まだ失敗できる環境なんだし・・・」と土方が続けた。
・・・・あっうんそういう冷静な意見ね。取り乱してんのが恥ずかしくなるやつじゃん





(・・・・つーか、ね。)
箸で、昨日の餅をつまむ。
残した餅の処理係だろうが何だろうがいいんだよ、俺は?
(ちょっとくらい硬くなってようがさ)
二人は何かいつもみたいに帰ってくるし、俺は電球替えにいかなきゃいけないし。
あの夜から他に変わったことない?って聞いたところで。
その・・・『俺たち光ってます』みたいな
そういうのって、発表しようがないと思うし。
うん。

並ぶ着信。真夜中に受信してたメール。
そうやって、初めの内は、知り合いがプレゼントみたいに仕事をくれるもんだから、履歴がすごい。
「・・・うわ。高杉見て」
メールの一つを、テーブルの隣で昼飯食ってる高杉に突き出す。
「誰やねん」
なにその急な関西弁。
「俺が高校んときちょっとつるんでた。ほら、原付でしつこく並走されてお前軽く事故った」
「てめえの巻き添えだろ」
まあ中学の高杉が目をつけられる理由はだいたい俺だ。俺への仕返しに、 チャリ登校してた高杉にちょっかいかけたらしいそいつを、あとで特定してシメた。その日の内から一緒に遊んだ記憶がある。
「へ〜今けっこう近所に住んでんだな、仕事しにこいだって。つーかほらっこいつさ」
「何ちょっとテンション上がってんだよ」
高杉はいたって普段の調子で、立ち上がった。
「だって懐かしいじゃん!」
「土方」
ぬう、と。
急に、俺の前を高杉の手がゆっくりよぎる。
はた、と画面と思い出に没入してた焦点が戻った。いつの間にかリビングへ出てきてたらしい土方が、足を止める。
「俺の部屋に落としてってたぞ」
家のカギ
土方の指が、目の前でそれを受け取り、反射する光が二人の間を移動する。 ぱち、とまばたきする俺の目に、かつて、すぐ家出してくるちっちゃな高杉へと、俺がよく渡していたそれがゆれるように重なってリビングの匂いに調和した。
「先に行ってる」って玄関を出てく土方の声には、待ちきれなさみたいなものが滲んでる。
「お前ら、どっか行くの?」
「寿司」
「・・・寿司?!」
「土方が食いてえんだと」
「そんなん俺も」
「お前は仕事入ってんだろ」
「・・・」
・・・つうか、最近のあいつの食い物に対するワガママなんなの? 唐突なピザとか
「ほら、電話鳴ってんぞ」
未練がましく廊下まで追いかけながら、高杉を睨んだまま電話に出る。
「・・・・・・え? いやっ、・・・・・・・・・・む、無理だめッ、ヤッ、だって通報されるから!」
思い切り通話を切って、すこしため息が出た。
「なに喘いでんだよ」
「いやエロ系の依頼」
「どんな?」
「あ、あんま言いたくない・・・」
「捕まんなよ」
「いや受けねっつの!」
キッと眉を寄せる俺の股間に、高杉の目線が下がる。
いや、勃ってない勃ってない。ちょっとしか。『二人がかりで酷くしてほしくてえ〜』、シチュエーション指定細けええ思わず途中まで聞き入ったわ天才か。土方の家出思い出して焦ったじゃねえか。
「・・・・・ちょ、いつまで見てんの、行け早く」
じゃっかん顔が赤くなってきた俺は、高杉を手で追いやる。なんで俺の股間を視姦してくんだよこいつ。
「お前」
高杉が、玄関のドアを開ける。
「溜まってんじゃねえの。最近してねえのか、土方と」
あまりにさらっと言われて反応が遅れた。
顔を上げると、いい感じにドアの間から陽が射して、高杉の頬が光ってる。
い・・・・
いや、だって、お前・・・
「あんなこともあって、あいつの調子も最悪だったし、そんなタイミング全くなかったじゃん」
「・・・・」
「・・・・・・・・・・・・えっ?」
「行ってくる」

バタン

・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?!
な・・・・
何、今の間?!
驚きのまぶたで固まったまま、取り残された。
てか、俺はどっちにびっくりすればいいの? 高杉が行ってきますしたこと? 返事ごまかされたこと?
(・・・ええ〜〜〜・・・)
完っ全、してるじゃん。いつ、するときあったよ
ついしゃがみこんで、顎に手を当てた。
どう考えても、土方の調子が戻ってきたここ一週間くらいの言い方じゃなかったんだけど。まさか、あいつがぼろっぼろんとき?
ええ〜
ええ〜しか言えねえわもう〜、するか普通? あいつ本当そういうとこあるわ〜、土方の家出の後もそうだったわ〜。
・・・あいつっていうか、あいつ『ら』か。
うわっ
何この愛しさと切なさ、篠原涼子かよ






・・・別にさ。

気にしてるわけじゃ、ない。ほんと。
金時があのとき言ったこと。
高杉と土方が互いを選んだら、どうなるかって。
全然。
「どっちとくっつくんだろな〜」
・・・ピタ
電動ドライバーを一瞬止めると、例の高校の元同級生がこちらを見た。その指が無言でテレビを指す。・・・ああテレビドラマね。
ギュイイイとはまり込んでいくネジを見つめながら、Tシャツの袖で汗をぬぐった。
(・・・そもそも)
どっちを選ぶとかそういうんじゃないじゃん。俺たちは。こっちだって、高杉と土方どっちにするかって聞かれたら、は?って言うし。キレ気味に。
「いや何でキレんの?」
・・・でもさ。
土方と高杉。と、土方と俺。の間には、決定的な違いがあると思う。
「違いってなに?」
「・・・なにかはわからん」
「じゃあ決定してなくね?」
うるせえな、と組み立て中の棚をひっくり返す。
「その子って、銀時くんと高杉に対する態度が明らかに違えわけ?」
そらもう・・・・
初めっから。
俺のクライスラーに乗り込んできた、あの日から。限りなく孤独で、高杉を見つめていたあいつ。
ベランダの向こう、葉の間にゆれる光が横から目に入ってきた。
・・・・例えば
昨日家出てくる前に、
俺がさ

「土方! ちょっと部屋からレインブーツ取って、コーナンの袋に入れっぱの!」
「長靴って言えよ」
「いーから!」
玄関で靴履いたまま、体を乗り出す。突き出される袋をひったくるように受け取り、ドアを開けてから俺は最後になんとか踏みとどまって振り返る。
案の定、土方のムスっとした眉。あ〜〜やっちまった・・・ただでさえ最近コミュニケーション取ってねえのに・・・
「・・・いや、助かっ」
「行ってらっしゃい」
バタガチャッ
・・・・
「・・・何そのカギかける早さ!」

・・・そんで今朝。
家出てくる前に、俺が

「土方! 六角ドライバー取って、コーナンの袋から!」
「何でもかんでもコーナンの袋に入れてんなよ!」
土方が3つほど持ってきた袋を、どさっと玄関先に置く。
ちら
今回こそは何か言わねえと。 と思って俺は、リビングに戻っていく土方の後ろ姿と、テーブルで何か読んでる高杉を眺めた。
土方が何か言ったのか(どうせ俺の文句)、わずかに動く高杉の顔の角度。
瞳と、瞳のあいだ。
空気のとけあい方。
蛍光灯の白っぽさを受けている、2つの黒髪。
「・・・・・」
2人の間で、光線みたいなものがちかちかしてる。
初めの日より、強く。
俺は、四角い光の中ですこし小さい2人の姿を見てから、玄関を出てきた。

「なにそれ切ね〜〜〜」
真っ黒の革張りソファーに両足置いて、知り合いが天を仰ぐ。
「お前たちの間コーナンの袋しか行き来してないじゃん〜」
・・・そこなんだよ。
「そこなの?」
なんつーか、確実なものがないんだよ。
俺と土方の間には。
俺と高杉は、たぶん、昨日ぶりくらいの感覚で10年後も会える。高杉と土方には引力がある。
でも、俺と土方は。
どうしても、未来が読めない。
「なんで?」
『だって、好きなんだもん!』
持ち上げかけていた棚を、足の上に思い切り落っことした。
手伝わされていた同級生がでかい悲鳴を上げる。セリフの聞こえたテレビを振り返った瞬間、始まるドラマチックな主題歌。
変な無言の間が漂う。
「・・・その子もこういうの弾くの?」とか聞かれて、棚をはさんだ涙目で見つめ合った。え、あ・・・・・うん。ひ、弾くよ・・・・・たまに・・・・・・けど




・・・土方のは、もっと。

透明感。
それが数多の粒になって、猛スピードで落下する。容赦なく地面に叩き付けられ、跳ねる泥。しずくはそのまま星になって、漆黒の夜に吸い込まれる。
見てはいけない底まで透けてしまいそうで、怖い。そういう、透明さ。
土方の曲。
「・・・・・」
3件の仕事から汗だくで帰ってきた足を止め、音が聞こえてくる部屋を見た。
(の、・・・・・登ってる〜〜〜・・・・)
寝込む前とは違うステージに。思ってると、ポロとばらけた和音で急に終わる。無意識に続きを待っていたら、しばらく無音が続いた後でドアが開いた。
首にかけてたタオルで口元を押さえながら、思わず土方に聞く。
「どしたの?」
「どうした、とは?」
質問を質問で返してくる土方の目。
なんか、すげえ焦点合ってるな。すげえ焦点合ってると、怖えんだな人間の目って。 透明であればあるほど鋭利って感覚を、俺は、こいつと高杉から学んだ気がする。てか何でこんな見てくんの?
「いや・・・ピアノの調子よさそうだったから。何かあった?」
「何か、とは?」
「その『とは』やめろさっきから! 生まれたてのAIか!」
「質問何だった?」
「・・・いや、高杉迎えに行った日に何かあったのかな〜って」
「ああ・・・」
「・・・・」
「あーー・・・・・・・・一回・・・・・・いやーーー・・・・・・・・・・・え、生まれたてのAI?」
「何で今拾うの恥ずかしい!」
何でこいつ、こんな言語力落ちてんの?
能力、振りすぎだろ。ピアノの方に。
(ちぇ、勢いのまま聞いたのに・・・)
まくってた袖を解きながら、キッチンに向かう。
くるくる・・・・
・・・そういや、土方がピアノ弾く時間と、回復ぶりって比例してるよな。
たまに朝土方が部屋でピアノを弾いてる中、俺が仕事の呼び出しもらって出てって夕方過ぎに帰ってきてもリビングの景色が一切変わってないときなんか、鬼かよと思う。どんな集中力だよ。 けど夜中前にはやめる。ほぼ必ず。ノったらノった分だけやり切る高杉と違って、もともと規則的なやり方が性に合ってるらしい。真面目かよ。
(こいつが一番、起業向いてたりして)
シンクの水を出すと、光が指の隙間を通ってく。
ぼうとそれを見てると、ほんとうにふと、余計なものが抜けた頭に高杉の言葉がぽかっと浮かんだ。
『知ってたみたいな
晴天の霹靂』

重なるな。
土方の音に。
あーなるほど・・・あの雨の夜のこと、土方に言わせるとこういう音楽になるわけね・・・
冷凍庫からアイスを取って、足をひきずりながらソファーに倒れこんだ。
しばらく言葉を探していたような土方は集中が途切れたらしく、本格的にタバコをくわえて休憩しだす。
「床にアイスたれてる奴見たらバカらしくなってきた」
とかなんとか言ってる。
うるせえわ・・・・・
おれだってなあ バカらしくなったわ ドラマみてたら。
おれたちもしかるべきところでああいうの鳴らしてもらったらもっとかんたんかもなあって・・・・・・・・・・

その場合・・・・・
曲は
ひじかたの・・・・



「なんだ?」

とつぜん焦点が合った視界に、土方がいてびっくりした。
え。
小さい袋に、ソーダ色で汚れたぞうきんやらを放りこんでる。
「お前、一瞬寝てたぞ」
あまじで
ぼけっと見つめてると、眉をあげられる。
「・・・なんだよ?」
なんだっけ
半袖なのが今更、新鮮
「おまえの夢みてた、いま・・・」
「な、ど・・・どんな」
一度、喉がつまったみたいな後で土方が聞く。あ、俺けっこう恥ずかしいこと言ったもんな今
「お前の作った主題歌がくっそ安っぽいドラマで流れてる夢」
「・・・ふ」
たぶん俺の手から落ちて溶けたアイスを片付けてるから、下に伏せてる土方のまつ毛、すこしだけ見える笑みが夜の蛍光灯に光っている。
・・・・
・・・垂れていた俺の指の腹が、その前髪をすると下からすこしなぞった。
細い感触。
なんか、心臓が小さくなるような。
久しぶりだな、こういう時間。
土方のくちびるが開く。
「・・・するか?」
前髪の影からこっちを見る土方の目。
・・・・・・ん、え
・・・俺に聞いてんの? まじで?
したい。・・・したい、すごく。
でも、向こうから先に言われて、逆にどうしたらいいかわからなくなった。
「・・・ヤる気ねえんならそのまま寝てろよ」
疲れてんだろ
と、土方が俺の上にまたがる。あ、えろい。いよいよ夢オチの可能性が濃厚になってきた。
けど、土方の存在感は逆に現実味を帯びていく。 俺のTシャツをまくる土方の手のひらが気持ちい。どうしてか至れり尽くせりで、口内で勃たせてくれてから、俺の上で身をよじる土方の瞳は熱にうるんですこし不敵に満足そう。なんだこれ。
いつ覚めんの?
「ア、お前、足、どうした?」
うっせえそこは聞くな。いろいろ事情があんだよ、こっちにも。
ぐ、と両手で腰を掴むと、土方のまぶたが震える。
「ア、ァ、・・・ッん」
「・・・・」
「・・・う、あ、ちょっ、」
「・・・・」
「イ、・・・・」
「・・・・」
・・・・・あ、イきそう
しばらく両目をつむって、余韻に浸った。・・・・1ヶ月ぶりくらいにセックスした気がする・・・・・・最高。
息を整え終わっても、肌が離れない。
(・・・・土方?)
・・・あれ、こいつも一瞬、寝てる?
俺の上で、こっちに倒れこんだまま動かない土方の頭が、あっち向きで俺の肩に乗っている。
・・・あー、ちょっと。本当に、ちょっとだけ。
ぎゅ。と両手でその存在を抱き込んで確かめてみた。腕の中の体。
瞬間、ふわぁと景色が淡くなって風が舞うようなこの感覚。
(・・・現実だな。)
なんなのこいつ。そんなに、俺とセックスしたかったの。うわなんだろ、この安心感。・・・ほんのちょっとだけ、お前が、もう高杉しかいらなくなったんじゃないかと、思ったよ この1ヶ月

高杉が帰ってくる音が耳に入ってこなくて、俺は手を放すヒマがなかった。
このクソ恥ずかしい態勢。・・・最悪だ、死ぬ。
目が開けられない俺に向かって降ってくる高杉の声。
「なんでコアラみたいになっとんねん」

「・・・・・何で関西弁やねん」

ありがとう、高杉。たぶんそのツッコミで正解。