新ル


女はハイヒールなんてものを履いてよく生きていけるものだ。
その踵の音だけで、次元は彼女だとわかる。例え100人いようが当ててみせよう。 彼女のそれは不二子という自我まみれだ。 あふれんばかりのわがままを鳴らし、それらを叶えてもらえる事を みじんも疑わず、女の武器というものを金庫のようにしてそこへ収納している。 何にせよ次元にはいつだってそれが悪夢の足音にしか聞こえなかった。
「次元。いないの」
「・・・・」
「やあね。返事くらいしたらどうかしら」
「俺はお前に用がない」
ソファーで寝転がって顔にかぶせていた帽子を、許可もなしに取り上げられる。まぶたはあげなかった。香水の暴力だけで十分だ。
「ルパンが出てくれないの」
「ほう、ようやくお前に愛想が尽きたんだな」
ハッハ!と笑ったこちらの腹の上へ不二子がずんと腰掛けた。それでも文句が出なかったのは、彼女が珍しくたっぷりとアンニュイな唇をしていたからだ。 いつもの嫌味も言わずに何か思慮深く、自分の上で太ももを組んでいる。 ハイヒールはオーソドックスな赤だった。
「・・・ねえ、次元。あたしは女に生まれてきたことを心底感謝してるわ。神様は正しいことをしたと思ってるわ。女としてルパンの側にいることがあたしの人生を 絶対的なものにするのよ。 あたしとアンタの違いは、大胆に言えばそれだけだわ。喧嘩中だか知らないけど、 ねえ、連絡とってみて。アンタからなら、ルパンも出るでしょ」
つぶやくだけのようにして最後を言った不二子は、こちらの首の後ろから勝手にミリ単位の通信機を取り出した。長いマニキュアの爪でアンテナをつまむ。 ピ、ピ、と光るその赤いライトは次元からルパンだけへの信号だ。
「次元ちゃん〜こっちは今大変なんだよ。・・・何かあったか」
「どうだ、俺がいなくて往生してるか?」
「いんっや、せいせいしてるね俺は! 獲物も一人で手に入れたよ。・・・しっかしその声、まだ怒ってんのかあ? 次元。やだやだ、 そういうの嫌われるよお前。なあ、上等のワイン買って帰る。それで機嫌直してくれよ。とっつぁんも来ねえし帰りの車が寂しいんだよ。・・・やっぱお前がいねっとねェ」
ルパンの呆れたような笑い声で短い通信は切れた。不二子はソファーの背に頬杖をついて、伏せたまぶたでこちらを見下ろしていた。 獲物は手に入ることがわかったというのに、さっきから何が気に入らないのか、 いい加減腹から退いて欲しい。
頭に手をついたまま何かを考えていた不二子は、投げやり気味にこちらへどさりと背中で寝た。彼女の髪が鼻や首にかぶさった。 「おい何しやがる」、という自分の声にため息が重なる。 それから、自分の頬近くで静かにまつ毛の長いまぶたを閉じた。
「アンタが女だったら絶対勝てた自信があるわ。そりゃあるわ。いい? アンタが今ルパンの一番側に居るのは男だからよ。忘れないで。その銃を 無骨な手で持ってスコッチを渋く飲んで、ただ肩を組み合いながら笑うのよ・・・・・・・・そして、あたしはハイヒールを履くんだわ」



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