高杉とは中学の頃からつるんでいた。土方は高校の頃から友人だった。どちらもその頃は、たぶん一番一緒にいた。そんな二人が、俺の知らない間にいつの間にか出会ってて、 俺の知らないところで何かしてる。高杉とっていうのが何か、何でだか なんっか面白くない感じ? 「だから?」 寝起きらしい高杉は、さらりとした髪の毛にすこし寝癖をつけて、玄関のドアを開けたまますごく機嫌悪そうな目でこちらを見上げた。 「てめー、んなこと言うためにこんな朝っぱらからうち来たのかよ」 「歩きながら考えてる内にごっちゃんなってさー」 「お前のそれは行動力じゃねー、はた迷惑だ」 ふー、と低血圧な息を吐きながら額をおさえて中に戻っていく高杉に続いて、ドアを支えながら玄関に入った。 相変わらずわけのわからない抽象画が飾ってある。 見てるだけでぐるぐる頭が回りそうなそれは、今の自分の心境に当てはまりそうで、普段ならスルーするそれを眺めながら口を開いた。 「土方きてる?」 「朝の5時半なんかにうち来んのは新聞配達かてめーだけだ」 「いや、家寄ったらいなかったら」 「居留守だろ、居留守」 どうせ一人でもんもん悩んでんだよ つーか普通に寝てんじゃねーの ぼふり、とベッドにまた転がった高杉は人差し指の爪先なんかをいじりながら続けた。 「したろ、昨日」 「えっ、何でわかんの」 「お前が土方に相談しに行くっつった時点で、そうなることは読めてた」 「何、お前、超能力者?」 「てめーらが単純すぎんだよ」 「じゃ、何で2回目襲っちゃったのか教えてよ」 やたら芸術的なフォルムをしてる椅子にまたがって聞くと、高杉は煙草をくわえたままこちらを見た。それをくちびるから離し、へえ、とすこし興味深そうに言う。 「何か、お前と土方の関係性にちぇーってなってさー、もっ回押し倒したんだけど」 「・・・ふうん」 「思えば、相手してもらうのお前でもよかったかなー」 「俺が嫌だ」 高杉は火のついた煙草をくわえて、ごろんとベッドに仰向けになった。本気で嫌そうな口調だった。 中学からのノンケのツレとなんか今更すぎて萎える、と言われた覚えはある。高杉が何でもいけると知ったのは、彼が土方と知り合った後だった。 そういう場所で会ったと聞いて、えっ高杉、お前男もいけんのと心底驚いた。 高杉はツレで、お友達じゃない。何回か女をめぐってライバルだったし。ぜんぶ負けたけど。 そういう未だに気に食わないとこもある。 「でも、土方とは何か色々してんだろー」 「あいつが言ったのか?」 「いやー?」 「ふん・・・まあ別にお前に言うほどのことじゃねーよ」 「あーほらそーやってえー」 太ももの間に両手をついて椅子を揺らすと、それより、と高杉が遮った。 「お前、例のバイトの後輩どうすんだよ」 「あー」 そうだった。今日のシフトで一緒に入ってるんだった。 その後輩は、一昨日のバイトあがりで、原付の鍵を外している自分に告白してきた。 坂田先輩、と呼び止められたあと、ものすごく長い間をおいて、「あの、男に言われてもアレかもしんないんすけど・・・好きなんです」、と言われた。 男に告白されるなんて人生初めての事件に、(えっ、へっ?)となった自分は、 えーとー、と額を一瞬押さえ、「お前もしかして女ダメな子?」と聞いた。後輩は気まずそうに、くちびるをなめて、とても小さく、ハイ、と言うから、 「あ大丈夫、ちょうど俺のツレもそう」と返すと、彼は目を見開いてから、ふわあっと笑った。 俺は、その笑顔に意外にも、胸がとくり動かされた。あれ、こいつちょっとかわいくね? あれ、これいけんじゃね? あ、フツーに寝てみたいかも、と思った。 そうしてその後すぐに、高杉にメールをして、土方に電話をかけたのが一昨日のことだった。 「今日、返事してみようかなー」 「付き合うのか?」 「んーまあ。それが早いよね。男大丈夫ってわかったし」 「ふーん。まがんばれよ」 高杉はもう二度寝する気満々で、まったく心のこもってないとってつけたような台詞を残してこちらに背を向けた。 無防備だ。土方がいけたんなら、高杉もいけるかな・・・・そんなちょっとした好奇心でベッドに手をついてのぞきこんでみる。 まぶたの肌が綺麗で白くて、キスしてみたい感じのあれだ。だけど、顔を近づける前に思い切り蹴られた。 「おま、えほッ、ちょっとは加減しろよ! そんなに嫌か!」 「嫌だ」 「何で土方はよくてー」 「あいつは見た目が好みだから」 言いながら、もう布団をばさりかぶった高杉に、あーそう、と低い声を返して、玄関で靴を履いた。 土方が好み。俺はもう友人として一緒にいすぎて、アレが好みなのかどうなのかそういう範囲で考えられない。土方は土方だ。客観的にものすごく男前だと思うし、 セックスの時は煽られると思ったし。好み。うーん。だいたい、好みってなんだ。 鍵を差込み、原付を走らせる。 思えば、付き合ってきた女もバラバラだった。いい感じになれば関係進めて、だめになったら別れて、のくり返し。その瞬間のときめきで俺は生きてきた。 うーーーん。 うなっている内にバイト先についた。信号で止まったり、角曲がったりの記憶がない。考え事に完全没頭していた。頭をかいていると、 もう一台原付が道路から入ってきた。あの子だ。 「よー」 手をあげれば、後輩はメットを外してこちらを見て、ちょっと目元を染めながら俯いた。 「お、お早うございます。早いんすね」 「んーお前がいつも早いから。待ってた」 「え」 原付に腰でもたれて、彼を見る。後輩はどこかぎくしゃくと鍵を抜いて話しかけてきた。 「あ、あの、こないだ、は、」 「うん付き合ってもいいよ。てか、付き合いたい」 「ですよね・・・・・・・・ええっ?!」 「何?」 振り向きながら、すごくびっくりしてる顔。大きな目が更に大きくなっている。かわいく整った顔はだいぶ女の子にモテるだろうに。 土方だって、あの容姿だ、学校一モテていた。男前がゲイであるということは、女子への供給が少なくなるということだ。 何か、ざまーみろという気がしないでもない。 「あ、あの先輩、男って・・・」 「大丈夫」 「そう・・・なんですか?」 「うん、実際したからばっちり」 「あ・・・・・そうなんすか・・・」 「あ、やきもち?」 両手をポケットに入れたままのぞきこむと、後輩は顔を染めて手の甲でくちびるをおさえた。うあーすごく素直でかわいい反応。 そのまま顔を近づけ、その手を退かせてキスをする。 「・・・外で、」 「誰も見てないよ」 言いながらもう一度くちびるを寄せる。泣きそうでどこかうっとりしたまぶたが気分いい。 そのまま手をひいて更衣室に入り、まだ誰もいない薄暗いそこでロッカーに彼を押し付け舌を絡めた。 ハァ、とくちびるを離すと、・・・先輩、今日、先輩んち行っていいですか、と遠慮がちに抱きつかれたので、うん、 と頭を撫でてやった。生まれて初めて彼氏ができちゃったなーと思う。付き合うのが一番の近道には違いなかった、早速向こうから誘ってくれるなんてラッキーだ。 土方には相談に乗ってもらった分、やっぱり報告くらいはしないといけないだろう。そう思って、制服に腕を通しながらポチポチ、メールを打った。ちょっと待ってみたけど、返事はなかった。 ← → |