突然の家出電話に、金時は喜んで、駅まで来てくれた。 広場を颯爽と歩いてくる姿が、すれちがう女性の目をすうと惹いていた。 「一緒にいれるの、うれしいよ」 そんな風にアパートの部屋に迎え入れ、靴も脱ぐ前に玄関に入ったとたん、髪にキスを落としてくる。 顔をすこし後ろに傾ければ、自然と唇に移してくれた。 玄関でそれが深くなって肌に指が這っていると、ドア向こうから急に跳ねるような足音が聞こえてくる。 金時は、「げ、」、とこちらの頭の横に唇を寄せたまま、服から手を出した。 「ちょ、見てえええ! コレゆってたやつー! もー今回の出来栄えは文句ナシ・・・・アレッ?!」 勝手にバターンと玄関のドアを開けたその男は、掲げていたフィギュアの箱下から顔をのぞかせた。 「え、土方くん! 何で何で!」 出た、ベースだ。 「お前ってほんとチャイムという存在知らないよね」 金時は大きく開け放たれたままのドアノブに手を伸ばして、はーと残念そうにため息をついた。 「喧嘩でもした?」 ベースが、 新世紀エヴァンゲリオン(彼らの間で流行ってでもいるのか)のアスカのフィギュアを散々褒め称えて見せびらかしてゴロゴロ床で転がってミルクティー淹れてえとわがままを言ってテレビに爆笑して帰った後、ローテーブルに座って金時がこちらを見た。 「高杉って謝らないでしょ」 苦笑と共に、シックなマグカップが置かれる。 「・・・高杉じゃない方の奴」 言うと、金時は頬杖をついてじっと自分を見つめ、すこしだけ目を伏せた。 「あいつって不思議なヤツだよな。高杉とはぜんぜん別の意味で」 そんな金時の、まるいまぶたの肌をぼうと見つめた。 ・・・金時や高杉は、流れる川みたいだ。そりゃアンタは曲がってるけど。 自分から見ればあいつは、もっと、泥くさい。 天邪鬼で、すぐ怒って、どっかだる気だ。 そのくせ、妙に、年季の入ったような情を持ってる。人に好かれる、何かを、持ってる。 バランスが悪い。 それをたまにコントロールできない。 だからって、あんな風に俺のことに干渉しなくたって。 「何かした? あいつ」 「・・・・」 ぜんぜん変わらない柔らかい声で聞く金時に、ぼそり話す。 『淫乱』。サイテー、だと、 冷たい声で言われた。からかうためでもなく、セックスの楽しみの一部でもなく、侮蔑、された。 確かに自分にはあまり貞操観念がない。坂田の彼女に悪いとも思わない。 けど、そんなのはあいつだって、同じくせに。 思い出すと腹立つ。もうしばらくは、顔も見たくない。 「いつまででも居ていいよ。ふーん、にしても淫乱かあ。・・・・ね、俺にもそんな土方くん、見せて」 「な、・・・・」 こちらをあぐらの中に抱え、後ろからもう手を忍ばせてる金時に、弱いところをつかれて、ん、と肩越しに振り返る。 自然のように笑んでいる唇。完全に毒気を抜かれ、息がもれた。 金時の肩にしなだれかかり、反った首筋に舌がぬるり這う。 「は、・・・・」 「大方俺が原因でしょ。わかんないなあ、俺と土方くんがするのってそんなにダメ?」 「さ、ァ・・・・・・・アンタは・・・急に怒ったり、すること、あんの」 「まあ、ないかな。怒りで感情的になるっていうことがないね俺は。むしろ逆に冷静だね」 「それ怖ェ・・・、」 「でしょ」 金時は、唇で耳裏をなぞりながら言った。 金時とのセックスは、しっとりとした汗をかく。ゆるやかな熱気に包まれる。 体中が薄いベールにくるまれるように、光沢があるみたいなセックスの空気に覆われてく気がする。 「ん、ゥ、金時」 後ろから首元を食んでる彼の髪を、掴む。 「いるよ」 低くて、いい声。 すぐ近くにある彼の耳に唇を押し当てた。達する瞬間、 「や、まだイきたくね」、と上ずった声に出して言うと、金時の体に急に一瞬力がこもって、「・・・今のずるい」、 とか何とかすこし悔しそうに放心した後、脱力した額が肩にすりつけられた。 セックスを「楽しむ」ということを、金時とは、出来る。 ベッドに入って、カールしたまつ毛を指でなぞった。 猫みたいに気持ち良さそうに閉じられる。・・・可愛い。 「なあ、アンタ彼女とか彼氏とかいねェの?」 「本命? いないよ。土方くんが、なる?」 土方は、目を細めて苦しくさえ感じる胸で金の髪を見つめた。 「このままここに住めばいいのに」 「、・・・・・」 閉じたままだったから、彼はその時の自分の顔を知らない。 土方は急に目を開いて、枕あたりを凝視した。 ちょっと、びっくりしたのだ。 何気なくだけ言われた彼のその台詞に、肯定の気持ちがすぐわいてこなかった事実に。 そういう選択肢もある。 好きな男ができて、気持ちが通じて、同棲する。 おかしいことじゃ、ぜんぜん、ない。 なのに、初めから帰るつもりばかりでいた。何があっても、あそこに。 次の日彼はギターを聴かせてくれた。 ディープ・パープルのあまりにもお約束的なイントロから始まった時は、 「いや、やっぱ弾きたいじゃんコレ」、と上目遣いをしてくる金時が笑った。 それから、メロディアスなジャズ調。 「すげえ」 「そんなことないよ。練習にそこまで時間も割いてないし。ただの趣味」 「ふうん、センスがいいんだな・・・・」 腕を組んで呟くと、金時は、・・・カリカリと耳をかいて、ギターをすこしぎこちなく壁に立てかけた。 音楽の波と、彼と一緒にいる空気に包まれた、心地いい時間。 それから、翌朝、彼が台所に立って、日本語じゃない何かを口ずさんでいた声に聞き惚れてしまった。 半分鼻歌みたいなものなのに、坂田の酔っ払いみたいな歌謡曲とはぜんぜん違う。耳よりも意識の奥へと、柔らかく沈んでゆく。 「ごめん。起こした?」 振り向く彼の顔。ベッドに手をついて、口を開けたまま返事が出ない。 「俺、昼からちょっと用事あるから。好きにしてて」 そうして、シャワーを浴びに行った。 「・・・・、」 ベッドにぼふり壁向きになって体を戻し、急に熱くなった目を落とす。それから片手を当てた。 ・・・こういうのが、たぶん、恋だ。 いちいち胸をきゅうと掴まれる。苦しくて切なくて、一緒にいれるなんて、素直にうれしいと思う。 ・・・・なのに その昼に、チャイムが鳴った。 は、と目を覚まして時計を確認し、忘れ物でもしたのだろうかと、直接ドアを開けてしまった。 「あ、てめェ・・・」 ろう下に立ってる、銀髪。 何か、スーツを着てネクタイをしてる。坂田の正装らしきものなんか初めて見た。 「・・・・・・」 坂田は、自分と目を合わせずに黙っていた。 謝りにきたわけではなさそうだ。 目を合わせないというより、何も見てないというか、己の頭の中を占めてることを見てる。 むすり下の方へ目をやって、口を開く。 「・・・・あのな、俺は、まだ・・・、」 「いや、帰ってこいって言いにきたわけじゃないから・・・気が済むまで家出してりゃ、いいし・・・」 ・・・じゃあ、何だ。何だか、いつもより抑揚のない声を聞きながら、いよいよけげんに顔をあげた。 いつもの坂田じゃない。 「ちょっとだけ、付き合ってほしいんだけど」 初めてみるスーツ姿で、妙な空気をまとっている坂田に、体はぼんやりしたまま自然と後をついて玄関を出た。 拒む気持ちなんか、出せなかった。家出するくらい、腹を立ててたはずなのに。 どうしたんだよ・・・そんな顔して 何か、あったか? ・・・・大丈夫か? 停めてあるクライスラーへ歩いていくまで、彼の後ろ姿を見ながらそればかり考えた。 口に出して言いたくなったけど、どんな言葉も坂田は嫌がっている気がした。 運転している間、坂田は無言だった。 考え事に没頭しているみたいにみえて、どこかすこし、落ち着かなさそうにもしていた。 彼とは反対の景色を見ながらも、(おい、しっかりしろよ)、と背中をたたいてやりたくなった。 車の行き着いた先は、高級ホテルだった。 ロビーが広くて豪華だ。 私服を着ているだけの自分が浮いてしまう。 「ここで待ってて」 坂田はそう言って自分をソファーに座らせ、フロントで一言二言話した。 その向こうから歩いてくる男に、土方は一瞬気がつかなかった。酸素すらうっとうしそうで、 坂田とすれ違う時に、短くだけ何かしゃべった。 そのまま出口へ行こうとして、ふといった感じでこちらへ向けた目が、は、と開く。 自分も開いた。 「金時。お前、こんなホテルで何して」 真っ黒な背広を着ていたせいもあるけど、全然わからなかった。・・・いつかみたいだ。・・・どれだけの顔を持ってんだ、アンタは。 「あー・・・用事あるって言ったでしょ、ソレだけど・・・・土方くんが何で?」 「俺は・・・あいつに・・・」 「ああ、あー、そっか、そうか銀時か」 金時は、耳のピアスに爪をかけて引っ張った。 「そんなの着て、坂田も、・・・何かあるのか、今日」 神妙な顔で聞いたこちらへ、金時は、へ?、とまばたきをして、ああ、といつものように笑った。 「いやこれは親父と会食してきただけだよ。2年ぶり。懐かしかったよ・・・・あーそうだね、まあ、銀時はね」 エレベーターへチラリ視線がいく。 「よくわかんないけど、複雑なんだろうなあ。俺はホストやってて、まァ親父と似たようなこともしてるし、取引もあるからさ。 銀時はそういうヤツじゃないからなァ・・・大学も行かずに・・・うん・・・後ろめたいのかねェ・・・」 半分独り言みたいに言われるそれは、土方にはよく理解できなかった。 「俺このまま帰るけど・・・土方くんは銀時、待つ? よね」 何となくすこし眉を下げると、ポン、と優しく頭に手を置かれた。本当にこんなんだっけ、 と錯覚しそうなくらい見慣れた金時に戻っている様子を、「・・・・」、唇をすこし開きながら見送って、床の模様を見た。 ・・・坂田の父親。 そういえば、でっかいとこの社長とか言ってた。義理のとも。 もしかしたら、本当は会いたくなかったんだろうか。 エレベーターをじっと見つめた。 「・・・俺の親父さあ。すんげー人なんだ。何もかも経験してきたみたいなオーラしてさ。何百人でも引っ張ってける力、持ってる。 裏じゃもー色々やってっけど。そのくせ、笑った皺が味深いし、俺の背中叩く、手なんか厚くて重くて力強くて。 すげー男なんだよ」 道路わきに停めたクライスラーの後部座席で、坂田は話した。 「俺が7才ん時に金時と一緒に拾ってもらって以来、本当によく・・・・・・・うん・・・・・あの頃出してもらった飯が忘れらんねえ。 息子がいっぱい欲しかったらしくてさァ。義理の兄貴は医者だし、義理の弟は飛行機持ってるよ。 金時んとこのマフィアは親父と関係いいしさ」 「は、マフィア?」 思わず、背から体を離して坂田を見た。 「何、聞いてねェの?」 ない。 マフィアて・・・ずいぶん物騒だ。でも、あんまりびっくりしていない自分がいる。 その理由は何となくわかる。 背中を預けなおして、黙った。 フィールダーがブオンと通り過ぎていく。坂田のスーツがすこしだけ音を立てて、意識を彼に戻した。 「・・・・・別にやりたいことねェから俺は勉強しねーっつった時も。好きにすればいいっつって、コイーバ吸いながら笑ってたよ。 俺がどんだけ困らせても・・・・・・・・・・・・・」 ところどころ切って話していた坂田は、そこで口をつぐんだ。 椅子に預けた頭を、窓に向けたままでいた。 土方はそれを横目で、盗み見た。 「・・・・・・」 ・・・多大な恩があるのだろうと思う。それを返したいのだとも思う。何かで。 会うと、親孝行できてないことを実感するのかもしれない。 表面では、そんなこと気にしてない、と思っていても、奥底ではそういう重みがあるのかも、しれない。 思い知りたくないから、会いたくない。 会いたくないという、その気持ちこそが、後ろめたいのかも、しれない。 「幸せならいいんだって。何やってても。人間結局それなんだって」 そう言う坂田のその銀髪に、気づけば、右手を伸ばしていた。 くしゃ、と指を曲げると、坂田の目がこちらを見て、下がった。 ゆっくり、頭が自分の肩に乗る。 ・・・この前は、あんな暴言を吐いて無理にセックスしたくせに、された俺も何やってんだろう。 「・・・親父さんがそう言うなら、それでいいんだろ」 よくわからないけど、勝手なことを言った。 坂田から伝染してきたみたいに、自分の胸まで虚しくてきつく狭まったみたいになってる。 分け合ってるみたいに。 坂田は柔らかいソファーにするように、しばらくこちらに頭を預けていた。 途中で、ブーブー、と携帯が鳴った。坂田のだ。 座席に放り出されてるそれに目を落とすと、女の名前の電話だった。 「彼女じゃねェのか」 「・・・今日はいい」 そう言って、まぶたを閉じた。銀の前髪越しにそれを見下ろし、静かに、窓の外を見る。 ・・・・・・・じゃあ、俺は。 「短い家出だったな」 高杉は台所で、焼酎を氷で割っていた。 リビングに違和感を感じる。何か、棚が移動してないか? 美術画が逆さまだし。 「スーツ脱げよ。皺んなるから」 「後でいい、もう」 坂田は床に横になって、足も腕もだらんとしている。 どっと疲れた感じをしていた。 自分は、何となくそばにいた。 彼と一緒にいれる、ということがあんなに嬉しかったのに。坂田を放っておけなくて、帰ってきてしまった。 (・・・何だよ、俺。) めくれている背広の端を何となく直してやる。そのまま床に手をつくフリして指で服にだけ触れていた。 坂田は、きっとわかっていながら黙っていた。 しかし、高杉という人間は空気を読むということを知らない。 全く、知らない。 グラスを揺らしながらソファーに腰掛け、あろうことか、急に、テレビでやってたホラーを観だした。 きゃああ!という女の悲鳴と、いかにも出そうな音楽が響く。 「っ・・・・」 ぴた、と坂田と自分の体が同時に固まり、ゆっくりテレビを見た。それから、戻した坂田の目と合う。 「・・・何だよ、てめー、こういうの怖いのか?」 「アホ言うな、ガキと一緒にするんじゃねェ・・・、」 ガターン! 音楽が急に大きくなり物音に心臓が跳ねた。坂田の肩もすごい跳ねてる。 慌てて、ぎこちなく起き上がる。坂田も、目を泳がせながら、立ち上がった。 「俺は別に怖いわけじゃねェ。わけじゃねェが、部屋戻るかな。ま、漫画読みたいし」 「俺も、そういうわけじゃねェ。けど、コンビニ行くかな。ま、マガジン買ってくるし」 「発売日じゃねェだろが! 怖いんだろ!」 「てめェこそ、漫画なんか大抵リビングで読んでんじゃねェか、怖いんだろうがァ!」 「おい、聞こえねェだろがうるせー。お前らも観ろよ、コレ」 強がっているうちに、高杉がとんでもないことを誘ってきた。 こ、これは、どう切り返せばいいのか、坂田も同じようなことをフル回転で絶対考えてる。けど、今日のこいつは本調子じゃない。くそ、 ここは俺かよ。 土方は、「・・・・あ、あのよ」、と床を這い進んだ。高杉の前で膝立ちする。 「おい、見えねェ」 「あのよ、じん、人生ゲームやらねえ?」 「どかねえなら蹴るぞ」 「いや、わかった、待て、その、セックス! セックスしたくなった」 「せめてもうちょっと上手く誘え」 「てめ・・・・・・」 生返事の高杉の目はテレビに注がれたままだ。くそ、と土方は内心舌打ちをして、高杉の袖のはしっこを、つん、と引っ張った。 襟をかくフリでゆるめ、見えない鎖骨に影を作る。 「な、高杉・・・・今日は、俺、その、すんげえ・・・・・・お前に・・・好きにされてェんだけど」 高杉がリモコンをあげている。 妙にしばらくしてから、瞳が真っ直ぐこちらに向いた。 「うあッ・・・! ちょ、ちょ待て高杉、あのよ、テレビ、テレビ切ろうぜ、気が散る!」 押し倒されてガンと床で頭を打ちながら抗議すると、高杉がチラリ画面へ目をやった。 「断末魔が聞きてェんだよな・・・」 「いや、どうせ、聞こえねェって」 「なら、音量あげるからいい」 更に悪化だ。空気読め、バカ。断末魔て 救いを求めるように坂田に頭を向け、目が合ったことに、 (・・・しまった。) と、お互い、思った。 こいつには、こないだ貞操観念について、あんなに責められたんだった。 坂田は、心底、居心地悪そうな後ろめたそうな顔で、額をかき、 「そのー・・・・エロいって、結果的には、素晴らしいよね」 と脈略のない台詞を残し、そっとリビングを出てドアを閉めた。 ・・・・どさくさにまぎれて、あいっつ。アレで謝ったつもりか。助けにもなってねえし。 まあでも、今日の坂田には、何かあんまり文句が出てこない。ちょうど、一人になりたかったのかもしれない。仕方ねェな ・・・・・・・・・・・ァ 「ッ、・・・・・・・高杉」 「何だよ、今日はすげえ俺にされたいんだろ」 がばり両肩を掴もうとした体を、う・・・と床に戻す。 頭上に両手を大人しくあげたまま、指や舌の動きに、ハァ、と息を吐いて首をすこしよじる。 テレビからはおどろおどろしい音楽が流れっ放しで、それがとたん大きくなるたび、びく、とまつ毛が震えた。 言われなくとも、こちらから何かするどころじゃない。されるがままに感じた。 「・・・・何か新鮮だな」 ぽつり高杉が呟き、前髪がめくられ熱い吐息が額の肌にかかった。 それにしてもテレビが気になって仕方ない。 「・・・な、なあ、高杉」 「・・・・・」 「昨日の『迷宮美術館』観た? 録ってる?」 わざと大きい声で喋ると、高杉の手がリモコンに伸びボリュームがあがった。ダガーンという音楽が怖い。 「あー! あーあー!」 「て・・・めェ、いくら何でももっと違う声出せ」 「なら、早くそうさせろよバカ!」 「・・・ほーそんなに俺が欲しいんだな」 「あー欲しいすげー欲しい! もう我慢できねェ、だから、早くしろ、早く・・・!」 高杉が目を開いたまま眉を寄せる。なんか煽られたらしい。・・・案外バカじゃねえのこいつ。 「・・・・う・・・ッく」 挿入の瞬間は他のすべてを忘れる。 けど、その後はあまりに大きいテレビの音にびくびくとしてそれどころじゃなかった。 一度、ぎゃあああ、と女の悲鳴がまたあがった時には、体の全部の筋肉が締まった。 ふ、と高杉がわずかに苦しげな息を吐き、汗のかいたまぶたを伏せる。 それを、ふと、ぼうと見上げた。高杉のめったに見ないそういう顔は好きだ。 そんなところだけに意識を集中させようと頑張っていると、中の高杉をいつもより倍くらいに感じた。 「う、ァ、」 「・・・いつもよりエロいぜ、お前」 「ん、何か、」 「・・・・・チ」 舌打ちと同時に引き抜かれた。自分より先に高杉が達するのも珍しい。今日は珍しいことだらけだ。 それでなくとも、何だか最近 色んな物事が自分の周りで進んでいるのを確かに感じる。実際そうなのか、それとも・・・・俺が変わったのか。 それから、 「何かいまいちだったな、この映画」 「・・・・・・・」 んっじゃあ初めっから観んなよ!と心の中で精一杯の恨みを、ぶつけた。 全く、坂田について帰って来てしまい、帰ってきたらきたで何だコレ。 何で帰ってきてしまうんだこんなとこ ぼんやり鳴ってる携帯に手を伸ばし、 『巣戻りってやつ? 鳥みたいだね土方くん。今度の約束の時は飛んできてね』という金時のメールを見て、ふ、と笑ってしまった。 いや別に・・・ぜんぜんうまくないけども。 → ← |