そう、気づいてみれば、色んな物事がそれぞれの速度でまわっている。 このうちに来てから。時間が経っていくのと一緒に。 それは季節も一緒だ。まだ寒かった初めの頃に比べて、最近はコートもいらなくなった。 ・・・・そうか、また春かと思っていたら、久々に昔の、あの夢を見た。 誰かの手を掴んで、俺は必死に呼びかけている 何度も味わうイヤな喪失感 (ああ またこの夢だ・・・) 掴んでいた手がすべり落ちる ぱたりと生気をなくして、ただのものになる 振り返ると、自分以外誰も動いていない ・・・・く、な・・・ いくなよ いくな どれだけ振り絞っても声が出なくて、もうどこにも戻れない絶望に飲み込まれた瞬間、 ぱっと景色がまぶしく光り、意識の目を開いた 夢で感じてた過去の時間が、今に戻る ざああ、と早送りしたみたいな風が、どんどん自分を通り過ぎていく 何をそんなに物欲しそうな目ェしてんだよ。寝床か、煙草か? もう、お前がいて初めてあのうちなんだよ やる気出した俺って、どう、見とれた? ピアノ買うか ちょっとだけ、付き合ってほしいんだけど ここに住めばいいのに 高杉のこと、好き? 「ハッ・・・・・・・・」 バチッとまぶたを開くと、いつもの天井のざらざらが、朝の明るさをしていた。 ピピピ、と携帯のアラームが鳴っている。 「はぁ・・・・は・・・・」 ずず、と顔を膝と両腕に埋めたまま、ベッドの上で喉が痛い。 「おい土方ァ、アラームうるっせんだよ、起きんなら起きろよ」 ドンドンドン、と坂田が絶対蹴ってる音が聞こえる。 うるっせェのはてめェだ・・・ドアを開けてリビングに出ると、縞縞のトランクス一丁の坂田が尻をぼりぼりかきながらコーヒー牛乳を立ち飲みしていた。 ・・・普通の景色だ。呆れ返るほど。ぼ、と眺めていると、坂田がすこし眉をあげる。 「何」 「・・・・・・・てめェってパンツそれしか持ってねェのか」 「ルパンとおっ揃〜」 どうでもいいわ。いらん知識入れられた。 それにしても喉がからからだ。坂田をおしのけて、冷蔵庫を開ける。 フルーツ牛乳、マヨネーズ、焼酎、ビ−ル、高杉が寝ぼけて入れたのか、煙草 「・・・高杉は?」 「さあ。珍しく、朝の7時に出てったよ」 「ええ?」 確かにすごく珍しい。どうしたんだろう。 テーブルに水を置いて、さっき見た夢と、いつもとは違った最後と疑問をぼんやり浮かべた。 「・・・・・土方、お前、まだ寝てた方がいいんじゃねえの」 「何で」 「いや、昨日遅かったの?」 ・・・ええと、そういや、どうだっけ・・・・ 時計へ視線をあげると、クリーニングから返ってきたらしい坂田のスーツがカバーに入れられてかかっていた。 ホテルから帰る車の中で、一緒にいた時間をふと思い出してしまった。 俺と坂田にしては、不思議な時間。 坂田がこちらの目の先を見て、急にゆっくり首に手を当てる。・・・やめろよ、その空気にあてられると、なんかこっちまで気恥かしいだろが。 無言が苦しくなってきたところで、ちょうど自分の携帯の鳴るのが聞こえ、(ナイスタイミング)、素早く立ち上がった。 「あー・・・・土方」 部屋のドアを開けたところで、呼び止められる。・・・何だよ、こっちは電話鳴ってんだよ 坂田は、首をかいたまま、ちらとこちらに目をあげ、そらした。何だ、早く言え。 お前お得意の言い訳なら聞いてやるから。 「あん時は、何つうかその・・・・・・あー、まあ、ありがと」 へっ。 ついぽかんと見返した先の坂田は、もうさっさと背を向け洗面所に向かっていた。 ・・・・・ね、・・・・熱でも出たかあいつ 「ッはー・・・・・・」 坂田は鏡の前で、盛大に息を吐いた。慣れない言葉を言った。耳がじゃっかん赤い。 あの日は、何も考えずに土方の元へアクセルを踏む足が向いていた。他に思いつかなかった。 今までは、一人で行ってたのに。 土方にぽつぽつ話すことで、体から重たかった何かが抜けていった。すこしゆるやかになった。土方が一緒に半分受け止めてくれたのがわかった。 土方の肩が、枕みたいに、柔らかかった。 セックスの相手でも、面倒みるべき奴としてでもなくって。 ただこいつがそこにいてくれて、よかった、と、目を閉じながら素直に思った。 しかし、さらりと礼を言うことがこんなに労力使うとは・・・・・いやぜんぜんさらりと言えてないけど。 金時の奴なんか、よく常にするするとこんな言葉が出てくるよな。本当に血ィつながってんのか? 「・・・・・・」 鏡の中の、彼によく似た跳ねたパーマを見つめる。 ・・・・・土方は、金時に恋してるみたいだ。表情とか雰囲気見てたら、わかった。 (・・・そもそも何で) 俺はそれが気に入らないんだろう。 土方だって、何でなんだろう。 あいつの、何に惹かれるんだろう。 土方の中で。 俺と、高杉と、金時は、どういう存在としてどういう位置に、それぞれ、置かれてるんだろう。 「ああ、いや、別に・・・まあ普通に暇だけど・・・・・」 洗面所から出てくると、土方の何やらくすぐったそうな声が聞こえてきた。 ・・・・さっそくか。 普通に暇ってお前、アラームかけてたじゃん。何かしようと思ってたんじゃねーのかよ。 バーン、と足で土方の半開きだったドアを蹴り、携帯を奪い取る。 あってめ、という土方の手をひょいと避けた。 「朝から起きてるなんて珍しいなこの夜光虫。仕事しろ、仕事!」 「朝から可愛い弟の声聞くのも悪くない」 ・・・うわ、きもちわるい。片目をしかめて、ちょっと携帯を離した。 「土方くんすぐ出てっちゃうんだもんな〜何かとられた気分」 「去るもの追うなよ」 「去られてねーもん。今回はお前らの家族愛が勝っちゃっただけで」 「か、家族・・・」 「お前らはいいじゃんー時間があんだからさ〜」 「・・・・・金時、お前、もしかしてさぁ」 言いかけて、土方の肘鉄が腹に入った。こっ・・・・いつ! こんなことで本気の喧嘩技使うなよ 「金時? 悪い、朝から変なんだよこいつ、風邪でもひいてんじゃねーかな・・・・ああ、ああ・・・わかった」 ・・・・つか、さっきの精一杯の俺の誠意を、風邪ってお前。 あーもういいよ。どうせ、そうだよ俺なんか。金時に比べりゃ、いっつもなんにも言葉で言えてねえよ。 腹を押さえて、テーブルに這い上がり、ゴンと頭をつける。つか、マジ痛え 通話の終わった土方は、部屋に戻って綺麗に着替えて出てきた。 「・・・イッテラッシャイ?」 「行ってきます?」 「晩飯は」 「あーわかんねえ」 「あそ・・・」 「ああ、坂田」 何、とそっぽを向いたままでいると、玄関の開く音が聞こえる。 「あー・・ん時は、ど、ういたしまして」 それから、ガチャンと閉まった。 ・・・・・フン。届いてんじゃん。 「そっか。銀時に玄関封鎖されなかった?」 「肘で沈めてきた」 ハハ、と笑って、金時が部屋の鍵を差し込む。 土方は、そのカチャという時のすこし胸を引っ張られる緊張感に、どきとする。 金時のななめ後ろからの角度。入って、とドアを支える腕の服の皺。 坂田や高杉は自分の家にいるようなものだから、あいつらには抱いたことのない感じだ。 「それにしてもアンタってさ、」 大声で笑ったりしないよな、と言おうとしたら、ポケットの携帯が鳴った。 何だよ、まだ坂田か? と思ったが、表示されてる名前はピアノの彼女だ。 「あーもしもし?」 「土方くん? あのね、高杉、今、家にいる?」 「ああ、朝の7時に出かけたっつってたけど・・・」 「ええ?! 珍しい」 だよな。つーか、みんなにこう思われる高杉が可笑しい。 「携帯忘れてったのかな、ぜんぜん出ないの。今日ライブあるんだけど、時間変更になって。今回は来るって、言ってたんだけどな」 「そうなのか・・・まあ、高杉って気まぐれな奴だし」 ・・・と、返事している横目を、ドアを閉めてる金時が見返す。 まぶたの下からくる視線に光が走ってる。 「ふふ、だよね。もしも会ったら、伝えてくれる? 7時って」 わかった、と切った瞬間、いきなり金時に後ろから支えられるように倒され、落ちた携帯がカツンと床で音を立てた。うわ 腕をつかまれて、あおむけにされる。 「金・・・」 こちらの頭横に手をついた、逆光になって妙に真面目に見える金時を見上げた。 「な、んだよ・・・」 「ん。早く土方くんを、したいんだよ。それだけ」 言いながらシャツのボタンに手が伸びて、いや、ここで、という口を登ってきたくちびるで塞がれた。 「ンッ、」 そ・・・りゃ、俺だってしたいけど・・・ 舌を溶かし合うようなキスだけで、俺はもう瞳も頭もぼうとする。金時のセックスって、何でこうも、うっとりしてしまうものなんだ。 服の脱がせ方から、唇の動きから、指の感触まで。金時のそこかしこから何かを限りなく注がれる、この感じ。他の誰に対してより、心地よく溺れられる。 けれど、坂田のような怒りや、高杉のような獰猛さが、まったくないところに、逆にわずかな不自然さを感じたり、する。 「ねえ、土方くんって俺としてる時、俺だけを考えてくれてるでしょ。それがいい。俺だって土方くんを可愛がることだけ考えられる」 金時の体が背後で屈んで、奥まで深く届く。 後ろから、口に含まされた指が舌をすべる。喉への圧迫感が苦しい涙目で、ンっく、とくわえたまま唾液を飲み込んだ。 「その顔好き」 笑んだくちびるで、低く耳元に落ちる声。聞かれなくたって、こんな風にされてる時他を考えられるはずがない。 そして金時の言う通り、つま先から脳内のてっぺんまで、いっぱいに満たされる。 にしたって、妙に急だ・・・・・何かあったのか 「何かあった? そんな顔してる」 ぱたん、と倒れ込みながら考えてると、逆に金時にそう言われた。 「はぁ・・・・・・・別に、朝方夢見ただけ・・・・」 「夢ね・・・」 息をととのえながら閉じたまぶたの裏で、チカ、と光るひかり。いつもの悪夢には見てこなかった、最後。 それが影になって、金時がかぶさったのだとわかった。ベッドマットがボフ、と鳴り、下へ張っていく指にぴくり震えた。 「え、」 うそ、もっ回? ぱちと目を開けて、落ちてくる金髪を見る。 「ちょ、待・・・・」 肩に埋まるくちびる、またなめらかに指が肌を這う。 すでに駆け上ってくる快感を受け止めながら、何となくその髪に手を回した。 何をそんなに早るようにするんだろう。・・・俺をかわいがること以外に、考えたくないことでもあるのか? 「夢っていえばさあ、俺、何回も死ぬんだよね。銃で撃たれたり、ナイフで刺されたり、あ、俺死ぬ、って思った瞬間目が覚めるんだけど、 続きの死んだこと考えるんだよ」 そういうのは、たまに俺も見る。けど、その淡々とした感じが内容と相まって何か怖い。 「夢でよかった、って本気で泣きたくなるとき、ある」 「アンタが?」 何で、おかしい?と聞く金時は、隣に寝転がってこちらの指を指に絡めていた。そのきれいな顔をじっと見る。 だって、金時は本気の感情なんか表に出さない。 俺のピアノを聴いた時も、家出してきた時も、淫乱と言われたのだと言った時も、ほんと変わらない。 性格というよりは。自分を調節できる人種なんだと、思ってる。 そうだ、ソレだ。 俺のために取り乱してほしいとか、本気で妬いてほしいなんて、思わない。もっと、ささいなことでいい。すこしくらい、内側を 見せてくれたっていいのに・・・とか 「で、どんな夢だったの? 怖い夢? 呼んでくれたら、抱きしめて寝てあげたのに〜」 「別に・・・・いつも、見る昔の夢・・・」 でも、最後は何か・・・・ 「あ、ごめん待って」 思い出そうとしていると、ビープ・ビープのメロディーが床で鳴って、金時の指があっさり離れた。 ボタンを押して、「何かあった」、耳にあてる横顔に、肘をついてすこし体を起こした。 「うん・・・・・うん・・・・・それで?・・・・・そっか・・・・・・わかってるよ、そんなヘマしない」 まぶたを柔らかく落として、笑む口元が、何だか見たことのない金時の表情だった。 少々もれて聞こえてくる相手の声は、女だ。・・・その人には、見せるのか うわ、ヤキモチとかごめんだぞ・・・・ガリガリ首をかいて、目をそらした先で自分の携帯も光った。メールか。 今日はやけに活発な俺の携帯だ・・・・うう、と腕を伸ばして、スライドさせる。 それから、全ての思考がふっとんだ。 かいていた手が止まる。 自分の全部は、その画面一点だけに集中した。 無意識に口を開いて、文字を見つめた。 『絵ができた』 高杉からのメール。 たったそれだけ、書かれてる。 つうか、コレ何気に初メール、とか、それが5文字って、とか考える余地もないほど脳はその言葉だけで埋まった。 「ごめんね土方くん、大事な電話でさ・・・・アレ、どうかした」 こいつはいっつも突然だ。 金時が何か言ってるけど、聞こえなかった。 急いで服を着て、上着をはおる。 右腕を袖に通しながら、はだしのまま床を踏むと、「え、ちょっと、」、と金時に手を掴まれ、は、と彼の存在を思い出す。足は踏み出したまま、振り返った。 「ワリ、俺帰る、用事できた」 「うそ、やるだけやって、もう帰っちゃうの。ひどい」 「や、来るなりセックスに持ち込んだのはアンタだろ・・・」 すこし呆れ気味に言うと、金時はななめに目線を下げた。 「それは・・・・だって土方くんが高杉のことで電話なんかしてたから、ごめん」 「ウソだろ」 「・・・・ウソではないかな?」 ・・・かなって何だ。 とにかく、今は高杉のところに向かいたい。 焦燥感が顔に出てるのか、金時は自分の様子を見て、指の裏でこちらの頬を撫でた。 「わかった、また電話するね」 「・・・・ああ」 (・・・・ほら。) やっぱりそうして、微笑むだけ。 そうして、玄関へ足を向けてしまった後は、大学への道のりしか頭になかった。 「ハッ、・・・ハッ・・・」 駅から高杉の大学まで走った。 高杉は今、その絵と共に自分を待ってるという絶対的確信があった。 午後3時の空が坂上に広がっていて、道案内の看板が線になって過ぎていく。 大きな建物に門が見えてくると、そこにもたれかかっている人の姿が小さく視界の隅に入ってきた。 「高杉!」 重さも忘れていた足で、坂を登りきる。やっぱり高杉だったその人影は、ゆっくり門から背を離した。 前で止まると、急に息が苦しい。 「バカだなお前、走ってくるか。バス使えよ」 「ハッ、ハー、おま、メールで、言えよ、そういうことは、よ・・・」 こっちは、大学の名前しか知らねんだよ。 膝に両手をついて、落としていた頭をあげると、高杉はいたっていつもの普通の顔して組んでいた腕を解き、くるり背を向けた。 門の間を入ってく後姿。遅れて汗のにじんできた前髪を横にやりながら、後に続く。 大学内は広かった。 いくつもの建物が色んな風にあって、コンビニまである。 コレが大学か・・・と見ながらも、焦点は高杉の背中にしかなかった。 一番綺麗で新しそうな館に入ると、階段を登った。 静かな廊下で一室の前に来た時、高杉が立ち止まる。 ガラリ、と高杉の指がドアを開けてから、音は一切世界から消え去った。 「・・・・・・・・・」 ペンキのこぼれた紙、いくつも床にたてかけられた絵、よくわからない工作、その中で、土方の目は迷わず、真っ直ぐに一つのキャンバスへ向かった。 抽象画。 大きな棚くらいのサイズ。 そこに散りばめられた色。集まった色。時間をかけて塗り重ねられた、たくさんの色。 キャンバスいっぱいに、不協に協和している。 一見無秩序に塗りたくられたように見える、はっきりとした輪郭のないそれらが何を表しているのかなんてわからない。 ただ、 深海みたいに心底暗く遠い太陽みたいにひどくまぶしい圧倒的力強さで塗られた色は繊細な線は独創的なその重なりはジャズの時代のような一つの大きな流れになって平たい空間の最果てまでどこまでも渦巻く。 そこに宇宙がある。 高杉が作った、小さな。大きな。 高杉の、世界。 鳥肌は立つこともわすれた。 方向感覚すらなんにもない超絶な無の真ん中で、その絵とそれを見ている自分、それだけが、ぽつんとある。 その存在以外の何もかもを凌駕して奪ってしまう力。 「・・・・・高杉」 キャンバスの前で突っ立ったまま、くちびるが名前だけ呼んだ。泣いてもないのに、声がかすれた。 高杉は、感想などを聞かなかった。 ただ、 「お前に、やる」 ななめ後ろで確かな声でそう言った。 高杉のこと、好き? 彼女の言葉が、夢の最後が、光と一緒に甦る。 ・・・好きだよ。 この気持ちに、名前がなくても。 高杉の色が、線が、それが織りなす絵が。それを生み出す指が、手が、感性が。それらを作っている、血肉が、細胞が、精神が。 高杉を高杉としている、ぜんぶ。 恋愛とか親愛とか友愛とか。そんな区別や種類なんかないこの感覚は、誰にもわからなくっていい。俺だけのもので、いい。 お前に、やる その言葉には、声の出ないくちびると目を開いて高杉を見つめたまま首がゆっくり揺れた。 「・・・・もらえねえよ」 「知らねェ。ここに置きっぱにするなり、燃やすなり好きにしてろ」 ・・・じゃあ、持って帰るよ。ちゃんと運送屋に大事に運ばせて。 部屋に飾ろう。そんで、ピアノ、弾こう。何だか無性に弾きたい。最近、あんまり触ってなかった。今日は、朝から弾くつもりだったんだけど ・・・・・・あ、ピアノで思い出した。 「そういや今日ライブなんだろ、7時に変更って。俺に電話あったぞ」 「あー行かねェ。今更面倒くせえ」 「お前・・・・・つか、あのよ、元々何時だった?」 「5時」 聞いて、時計を見る。もう、16時半だ。メールが来たのが、13時頃。 ・・・・俺、待ってたせいか 「高杉、お前、彼女大事にしろよ。すげーいい人だ」 「彼女じゃねえって何回言わせんだ」 床に座ってあぐらをかく。高杉も横で寝転んで、ガサ、と紙の音がすれた。 「大学の時間ってどうなってんだ。いつ閉まる?」 「ん・・・」 曖昧な消えゆく声に、高杉に目をやるとまぶたが閉じていた。すー、と息が聞こえる。寝てる。 触れようとしたけど、今はやめた。 いつまででも、そうしてられる気がした。 が、高杉の隣で、しばらく絵を見ている内に、絶対金時とのセックスのせいで自分も寝ていた。 ということに、全く知らない先生に体を揺さぶられて、うぐわああ、と本気でびびり飛び起きながら気づいた。 (高杉はその叫び声に、がっ、と言って起きた)(・・・がっ、てお前) → ← |