「ねえねえ、ねえねえ」
「はい」
「かっとうって、何かな」
制服で腕を組んだまま、入り口の外の通路を歩いている客達をぼんやり見送る。
5階の飲食街は15時になると、暇だった。なんか平日みたい。 向かいのファミレスの店員なんか、後ろに腕組んであくびをしている。のん気だよ
黒板のランチメニューをしゃがんで消していた新人の女の子は、こちらに目線をあげたあと、 カッカと白いチョークを走らせた。
『葛藤』
上半身を水平にして、その2文字を眺めてみる。
あ、そんな字かくんだ。なんか人の名前みてえ。心境と比べて、いまいちピンとこない。
なんていうか、字面が

「ッはー・・・」
いてえ

店のホウキのてっぺんに顎を乗せて、昨夜土方に蹴られた腰をさすった。
腰っつうか、避けようとしてひねった背中の筋あたりが、いたい。馬鹿だ。その上ねむい。 昨日あんまり眠れなかったまま、朝一からのバイトですよ。 童話の魔女みたいな格好で、後ろにあてた腕を慎重に動かす。
(くそう)
あいっつ、無言でキックだもんな・・・
しかも、俺の靴片っぽだけ持ち去ったよ。どんな嫌がらせだ、地味に困るよ。
あのあとすぐに電話しようとしたけれど、蹴られたことにだんだん腹立ってきて、そのままでいた。 俺だけに非があんのかよ、と ベッドで寝転がったまま、ちらり携帯振り返ってみたり。 制服からこっそり出してみれば、はい、着信なし。ッくう〜俺にどうしろってんだ。
どうかしたんですか。女の子の心配そうな、かわいい声。
ちらり、目をやる。
「・・・はー、葛藤だよ」
ガシャン、ちりとりの棒をひっぱって、閉じた。

葛藤っていうか・・・なんつうの

横にしたほうきを背中の後ろで両脇にはさんで、通り過ぎる人の靴を、ぼうとみる。
こう・・・性欲と道徳の間でさ
ケーキや菓子折りを土方におしつけた後、揺れた。
電車に乗って、そこのエスカレーターを登って、6段目を踏んだあたりで、 あれ? なんかあいつ普通じゃなかったか、 と気づいてから。
えなに、あいつ、まさか、と、ずっと、頭の中でぐるぐる考えた。
もしかして、あの日のこと・・・
もっと言っちゃうとしたら、俺と寝ることについて・・・ ぜんぜん気にしてない?
(だったら)
何度もそこまで考えて、頭を打ちつけたくなった。
だとしたら、どうする気なのか。俺は

葛藤だ。

黒板から目を離して、ほこりの塊をすねるみたいに片足で払う。
(なのに、さ)
ケーキ返しに行ったとき、あいつ、こないだ襲った自分の前で、平気で、寝転び出すんだもん。のん気な寝息、たててたもん。 散々悩んでいた3日間がすごく馬鹿らしくなって、アっホらし、襲っちゃお。みたいな
しかも、さ
土方の両横に手をついて耳、首、とくちびるを落としていると、飛び出してくる知らない男の名前。ちゃんと、返ってくる舌。 うつつに気持ちよさそうな喉の声。
・・・お前、見かけによらず、軽いんじゃねえの。
何に苛立ったのかは、ちょっとわかりません
だけど、どこかで暗く喜んだのは、確かだった。おいおいこいつ、貞操観念ねえのか。なんだ、そうか。ふうーん。

都合、いい、と思った。

・・・・・そんなに怒るだなんて、おもって、なかった


「なに坂田のやつ、今日どうしたの」
「ッさァー 贔屓の女優が結婚でもしたんだろ」
あのな。
今日はもっと現実的なこと考えてるよ。邪魔してくれるな
ジャッキーが一体どうやって長い棒を華麗に回してるのかホウキで試そうとしたら、一回転目でカァンと窓にぶつかって転がった。 「何がしてえんだ」っていうバイト仲間のあきれる声に、いや昨日・・・・言いかけて、やめる。 通路から助走をつけてそいつらに膝蹴りをすると、背後から店長におもいきり頭をはたかれた。 (あーそのまま記憶喪失にでもなんないかな。) 黒板前の女の子が笑うことに、みんな、ほわんと一瞬和む。平和だ。
「あの子、銀さんに気あるよ」
つ〜、痛い頭を撫でながらレジ裏に入ったこちらへ、長谷川さんが意味深に笑った。
チョークを持った、童顔で胸の大きい子。ふたりで眺めながら、暇な店内のレジ台に腕を置く。
「銀さん、彼女いないんだろ。どう」
「どうって、べつに・・・」
キッチンに戻っていく仲間の遠くなる笑い声に、まぶたをすこし伏せた。バイト先の慣れた雰囲気の中に、入り込んではすぐにぬける頭。 全部あいつのせいだ。右目のまぶたを手の平でなでる。
「あのさー長谷川さん、その・・・今日、土方みた?」
「土方?」
「いやだからほらアンタの隣の」
「何で、早口なんだよ」
「みたのみてねえの」
「あー、ゴミの日以来ぜんぜん」
「・・・あそう」
黒いエプロンのはしっこをいじる。意味もなくヒモをほどいてみて、結び直す。
「何かあったか」
「ないよ、何言ってんの、ないよ」
長谷川さんのあやしそうな視線。
・・・だって、あいつわけわかんねんだもん。指先で持った、ヒモ先の糸目をみつめた。
俺が悩んでると平気で、葛藤してんのにのん気で、そのくせ、こっちが開き直ったとたん、急に、怒るんだよ。 しかも、怒鳴るとかじゃねえよ。キックだよ。
理解できないんだ、あいつ。わかんねんだよ、ぜんぜん。
おかげで、俺は、ここ最近ずっと、お前のことばかり考えてんだよ。
床へそらした目に、こちらの手を拒むようにはらった土方の手が浮かんでくる。

好きでもねえくせに

「うッ」
ヒモの両端をひっぱりすぎて、腰がしまった。首がおれて、頭が下に向けて落ちた。
もう、あの瞬間は、わけもわからず、なんかこっちが、きゅ、と切なくなった。 自分の立場の強さを言葉にして、つきつけられた感じだった。
好きでもないのにって。あー断然、俺が悪い。俺です、ごめん。やっぱこっちが、謝んねえとダメだ。
「・・・・」
ちょうちょ結びができあがる寸前で、ゆるり手がとまる。
でも、謝ってしまえば。
もう、できねえんだろう、な・・・
(なら、いっそのこと、受け入れてしまおうか?)

「ッあー! また葛藤だよ。どうにかしてくれよ、んもー!」
しゃがみこんで、前髪をぐしゃり手でつかんだ。くそーあいつ振り回しやがって!
「なんなんだよ銀さん」
「アナザー葛藤だよ」
「なに、アナザヘヴン?」
それ映画だろ。見当違いのことを繰り返している長谷川さんを無視して、彼女へ目をやった。
黒板前で折り曲げている膝と、スカートの影の太もも。髪から手を降ろして見つめる。

・・・なんで、土方なんだろう。俺の性欲の向く先は。
あの風邪の日の、あの顔みてから。一回でおさまればよかったのに、なんだって継続的なんだろう。

(あれ何でだろ。)
しゃがんだまま口に手をあてて、ななめ下をみた。落ちてるレシート。ちょっとじ、とみて考えてみるけどそんなとこに答えはない。う、いいや。 勢いをつけて両膝を、パン、と打った。
とにかく、これが、他に向きゃあ、それでいいわけだろ
「ちょ、あの子、映画にでも誘ってくる」
「いつになく、積極的だな」
「脱出だよ、脱出!」
何から? 長谷川さんの怪訝そうな声を背中に、黒板の横に立つ。
ちょっと目を見開いたあと、はにかんで笑う嬉しそうな彼女の顔をみながら、 そういや土方を飯と飲み以外に誘ったことなかったな、とぼんやり考えたり、した。



1日は映画の日だから、千円だよ。
いうと、彼女は知らなかったといった。
「いやまあ、俺もひじ、友達にいわれるまで知らなかったんだけどね」
人にぶつかった彼女の腕をひきながら、チケット売り場の電光掲示板を見上げる。 平日なのに、やっぱり800円の得ってすごい。だいたい、日本の映画はいかんせん高すぎるとおもわない。
聞いてみると、彼女の、へー、という相槌。・・・へーって。財布をしまいながら、並んだポスターに横目を向けた。
「あんまり、映画みない?」
「んー、あ、ジャッキー・チェンなら。パパが好きなんで」
出たよ、ジャッキー・・・
「あー俺も、こないだプロジェクトA観たよ」 いや観てはなかったけどな
「へえ、昔のやつですね」
「いや、ふっ、友達がさあ・・・」
すごく早かった土方の返答をおもいだす。
彼女がじ、と見上げてくる目線に気づき、思わず笑っていたらしい口をなおして真顔になった。
なにその目、なにその目。べつになんでもないよ、土方なんて。べつに、べつに、あいつ思い出して笑ったわけじゃないよ今のは
落ち着かずにそらして、席残り少なしのマークへ目をやる。 列の両端に伸びているロープを、 「遊園地みたい」と言う彼女へ、・・・あー、そだねと適当に頷きながら、四角いチケットを渡した。
そうやって白いフリルの服によそ見すると、やわらかい胸が腕にあたる。
「あ、ごめんね」
彼女の照れるようにゆっくり笑う口元と目じり。(・・・これ、いけるな。)と、なんとなくつま先をトントン、したものの
「なに、飲む?」
「えーと、ウーロン茶」
「お茶すきなの?」
「いえ、あたし・・・炭酸飲めないんです」
確かにそういう人はいるけど、その大げさに切なそうな声色と、ちらり媚びるような上目遣いから、 また、ぼんやり看板に戻す。あーなんだろ・・・。映画館という場所や景色が、視界からふっと遠くなる。急に幽体離脱みたいに(経験ないけど)、 頭だけぼうと離れた。
あれ、まずい。なんか・・・・・・・・・・・・帰りたい・・・・・
中身なんか何でもよかったはずなのにな・・・
(だいたい、親しくもない子に、何土方との話を友達友達いって話してんの、俺)
ぼけっとしている内に彼女が頼んだLLのコーラのストローをくわえる。うぐ、でかさに、泣きそう。何の罠。口の中の炭酸に咳き込んで、鼻をぬぐった。

映画はなかなかに面白かった。
隣に女の体があることも忘れた。ただ、 途中でちょっとしたヒロインのお色気シーンが流れたときに、むら、ときて、あれから一週間くらいみてない土方を思い出した。
暗い館内で、近く聞こえる彼女の息や組み替える足が、彼だったら、と思った。
はりついた前髪とか、缶ビールを口にあてる横顔とか、声、とか、脳内を巡って
ぼうと、そそった。
映画のスクリーンに顔を照らされながら、どこか離れた脳で、ぼうと
そこにちょうどいい子がいるのに、その胸の弾力なんかよりずっと なんで
水面みたいに髪や体の周りでゆらゆらする土方の色気、その腰の線や、つめる息の音が頭から離れない。
ふう、肘をついて、前髪をおしあげた。
(どうかしてるよ)
あれから土方に電話はできてない。謝んなきゃとは、思ってるよ。
でも、もう友人に戻るのは、惜しいんだよ。あれを手放すのは、惜しい。その葛藤が続いていて。そんで、どうしたら・・・
「・・・・」
映画の音と館内の空気に包まれながら、目を閉じた。
いっそのこと。と考えていたことが、また、頭をよぎる。
・・・言ってしまおうか。
好きだって。
たとえ、嘘だとしても。

それで、あれが俺のもんになるのなら



そのあと彼女とわかれて、電車に乗って。
確かに好きだって気持ちがなくてもさ、ちょっといいなと思ったら、つきあい始まるよな。それ、普通だよな。 窓の夕方の景色をみながら一人で言い訳した。
タタンタタタン、車輪の揺れを感じながら、 ポールにトンと頭をつける。
わけわからないのは、土方よりも、自分だな、と思った。
どうせ後で悩むくせに。土方のこととなると、普段の俺からちょっと考えられないくらいに。 突っ走って暴走して何やってんだろ。何でなんだろう
窓の外に伸びる道をぼんやりみた。

(坂道みたいだ。)
あの、土方の体を意識した日から。
土方に対して行動をとるたび悩むたび考えるたび、坂道を登っていく気がする。
のろのろと。重く。ゆっくり。でも着実と。そんでその先には・・・

アパートに戻って、ベッドに転がる。なんか、疲れた。あー土方に電話しねえと。頬にあたるシーツの感触と、匂いが心地いい。 今ここにあいつがいたら、後ろからがいいな、抱きついて、その服の空気をすうと吸い込んでさ・・・・
・・・あー土方と。したい、なあ・・・・・・・・





玄関の音で、目が覚めた。

「・・・土方?」
シーツで腕を擦って、口がぼんやり開く。
えっ。両手をついて、見開いた目で窓をみた。淡いオレンジ。 いつ寝てしまったのか、自分が今どこにいるのか、一瞬わからない。なんか、すごく気分のいい夢みてたことだけ、覚えてる。
「ッ・・・いたのか」
えなに、誰。
うわ、よだれ出てたよ。ぬるく濡れた指をシャツでぬぐって、口元をふいた。
「悪ィ、開いてたから、よ」
ぼけっと、体をひねって後ろを振り返る。焦点のぼやけた居間の中に、土方がいる。・・・ うん、土方、だよな。緊張か驚きか、はねたような肩が居心地悪そうにしておりた。あれこれ、夢の続き?
「・・・・どしつ、どしたの」 う、口回んねえ
土方はちょっと右を見渡して、口はしに手の甲をあてた。黒い服に皺ができる。
「いや、ゲホ、携帯・・・」
「携帯?」
「ここに忘れたんじゃねえかと思って」
「あ、そう、だったんだ」
なんだ、ずっと携帯なかったの。一週間、よく過ごせたな。 すぐ取りに来りゃいいのに、ああ、怒ってたのか。
テーブルに目をそらして首をかいている土方を、蹴られたことも抜けた、ぽかんと寝ぼけた頭のまま見た。
えーと、なんだっけ・・・ここんとこ頭の中にだけしかなかった、細身の服。うすい生地の線・・・
あーそうそう、俺、これに、触りたかったんだよ。
「ッんー土方ァ・・・」
ごろりうつ伏せに転がると、筋肉が伸びるのが気持ちいい声が喉から出た。ぐううと肩の筋がほぐれる。 まだぜんぜん覚めてない頭。眠りの余韻で上半身をベッドから半分宙にずらして、片手を伸ばし、手首を掴む。
「ん、だよ」
つれない声と共に瞬時に折った土方の腕が動かない。この警戒ぶり。 意地でもひっぱろうとすればするほど、ずるずる自分がひっぱられる。下に敷いている布団ごと、だんだんずれる。
「ちょ、・・・」
そのまま、倒れる土方の体を巻き込んでベッドとテーブルの間に落ちた。ドスン。太ももとか足とかに漫画の角があたっている。
布の匂い。夕方の部屋。
「・・・・」
落ちたままの体勢で下敷きにした土方を、狭い影の間で、ひどく近くにみた。 よく知らない子とのデートから帰ってきた体が、はーと解けた。 土方は、こちらから落ちる前髪があたって、 まぶたをしかめて細めていた。 そのくちびるに、ぼうと、くちびるを落とす。ちょっとそらされる顔
「、めろ、携帯取りに来ただけだよ、離せ」
んん・・・なんだよ、まだ怒ってんのォ・・土方の肩口にあてた額を擦る。あ、しまった、謝ってなかった。ついでに、言うのなら今かな
「こないだのことなら謝るよ、ごめんね。反省してる。あとさ」
「・・・・」
「俺、土方のこと好きだよ」
ブオン、外で通り過ぎるバイクの音。しばらくの間。
すこし顔を離して見ると、土方は目を見開いてから、床のほうへ一度そらして、急にこっちをおもいきり睨んだ。
「ふざけんな」
「ふざけてないよ」
夢心地のまま、その体をやわらかく抱きしめた。ああ、全身の眠気と、久々の彼の手触りが気持ちい。 首筋に舌を出す。もぞもぞ腰の服の切れ目を片手で探りながら、 耳にくちびるをつけた。
「ね、好きだよ」
「ッ・・・」
ふきこんだ耳が赤く染まって、 ちらり顔を伺うと、きつく閉じたまぶた。・・・あれ、なんで、そんな表情するんだよ。
「土方?」
ゆっくりあがった土方の手の甲で、まぶたが隠れる。どうしたの、腕を 退かせて顔をかがめると、頭が雑にあちらへ向けて落ちた。 揺れる前髪の黒が、妙に暗く濃い影になるのをみつめた。
「・・・かった」
「なに?」
「もう、わかった」
「なにが」
「わかったから、気のすむまですりゃあいいだろ!」

「・・・しろよ。そこまでして、したいなら」

土方の顔があがって、手が自分の首をひきよせ、初めて向こうから開いたくちびるが触れた。
ぼんやりうつつで、やわらかかった視界が、すうとひく。
眼球の周りで、徐々に目を見開いた。
周りの景色や空気が急激に体に張りついてくる。

完全に目が覚めた。

「っ・・・」
はじかれるように、土方の肩を手の平でおしやって、上半身を起こす。まぶたを開いて、土方をみる。
膝の下の、固い床の感触。
あ・・・、ぜんぜん意味のない声を出し、耳裏に指をやって目を泳がせた。
「ちが・・・そ、」
なんか、足元が、回る。なんだこれ。
していいらしいよ。気のすむまで。
完璧に都合いいはずなのに
「・・・何だよ」
土方の低くかすれた声が遠く聞こえる。
耳にやっていた手を、首の横にあてた。まばたきをする。
間違ってない。それが俺の打算。だから、言った。けど、だって
(あれ)
そんなこと、言われたかったわけじゃ、なかった。
結果的に望んだ方へ転んだのに。
・・・なんつってほしかったんだろ? 俺は。
言い訳したい
土方の肩に乗ったままだった自分の手をひく。ゆる、と瞳が揺れた。

違うんだよ 俺は、ただ
ここのところ、お前のことばかり考えてて 女の子と映画行ったらぜんぜん楽しくなくて なんでお前と来なかったんだろうとおもって  なんでお前にばかり性欲が向くんだろうとおもって
友人になんか今更戻れなくて
俺のに、したくて
そんで

そんで、それから

「坂田?」
唖然と土方を見返した。ず、後ずさる。

それから? なんだよ
なんだろう、この胸の、
あれっ、なに、これ

うそ


「あ、坂田、馬鹿」
後ろに足をひきすぎて、積み上げていたジャンプにぶつかって転んだ。
今まで土方についてばかり、葛藤したり考えたりしていた時間と一緒に。 バラバラ落ちてくる愛しい漫画の中で、呆然と、土方のいつもの黒髪や折った膝が、うすい橙に染まっているのをみつめた。
どくどくと鳴る心臓を聞く。
視界の部屋、犬の声
車の音
片手を口にあてて、下をみた。
(・・・・え、俺に何が起こってんの)